▼とてもいたい

現代で普通に学生してます。
ちょいえろなのでR-15











「よ!バクラ、遊びに来たぜ」

「帰れ」

オレの満面の笑みとは正反対に、バクラは苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てるように言った。いつものことだが、冷たい。冷たすぎる。

「そう言うな、土産も持って来たぜ。にんにくせんべい」

ほら、と好物を見せても、バクラは浮かない表情のまま視線を泳がせる。
いつもなら機嫌よく土産をひったくってドアをそのままにして部屋の奥に消えると言うのに、今日は何だか様子がおかしい。
「……仕方ねぇ。上がれよ」と部屋には入れてくれたが、相変わらず土産には手もつけない。

「今日は口数が少ないな、どうした?」

「……」

「オレに口で勝てないからか?」

「……うるせぇ」

オレが何か言っても目線を合わそうともせずに、落ちつかない様子で胡坐をかいた膝の上を指先で忙しなく叩いたりしている。

「何かあったのか?具合でも悪いのか?」


本当に様子がおかしい。調子でも悪いのかと心配になり、バクラの肩を掴んで真剣な瞳で問いかける。
だが、返ってきたのは予想もしなかった答えだった。

「うるせぇな!いま口内炎できてんだよ!!喋らせんな!!」

思わず目を瞬かせ、バクラの顔をじっと見つめた。声を荒げたせいで痛みがぶり返したのが、僅かに目がうるんでいる。
口内炎、あの、バクラが。口内炎。
確かに、それでは大好物のにんにくせんべいはおろか、食べることすらきついだろう。
その事実をゆっくりと飲み込み、口を開いた。

「珍しいな。丈夫だけが取り柄のお前が」

「ぶち殺すぞ」

「噛んだか?」

「……」

図星のようでグッと押し黙ったバクラを更に煽る。

「食べてるときに勢い余って噛んだんだろう。だいたい予想がつくぜ」

「……」

「ビタミンCが効くらしいぞ。レモンでも齧ったらどうだ?」

「くたばれ」

暴言と同時に飛んできた平手を避けると、風圧がオレの前髪を揺らした。避け方のパターンを覚えたからいいものの、まともに食らっていたら、吹っ飛んで壁にぶち当たり、失神していただろう。
冷や汗を伝わせながら内心で胸をなでおろすと、バクラの盛大な舌打ちが聞こえたが、これもいつものことなので気にしてはならない。

「どんなになってるか見せてみろ」
「あ゛?」

鋭い眼光と共に、どすの利いた声が刺さる。

「あんまり酷いようなら薬を塗った方がいいだろう」

ほら、と艶やかな頬に触れると、心底嫌そうな顔で払いのけられる。
ただ、オレの言ったことは正論だ。しばらく渋るも、素直に口を開けてオレの方に向き直った。相当痛みが酷いらしい。
ふっくらとした唇が開かれ、白い健康的な歯が覗く。ひくひくと動く赤い舌が扇情的で、そのまま指などを突っ込みたくなるが欲望に耐える。
これだけ頑丈そうな歯に噛まれたら、咥内も堪ったものではなかっただろうな、などと考えながら「どこを噛んだんだ?」と聞いてみる。

「ひぁい」

口を開けたまましゃべったせいで、声色がいつもより甘いものになる。興奮を抑えながらも、何とか冷静を装う。

「左、か」

バクラの言ったとおりに左を見れば、白く凹んで炎症した場所が見えた。それなりに大きくなっており、これは確かに痛いだろうと同情しながらも油断した身体をがっちりと抱きすくめながら唇を合わせ、噛まれないうちに一気に舌を差し入れる。

「てめ!!ぇぅ、っ、ん、んんっ!!」

バクラが渾身の力で抜けようとするも、肘の関節をがっちりとホールドしているので力任せにもがこうと簡単に抜けられることはない。ただ、それはオレの力が持つまでだ。持久戦になってオレが少しでも力を緩めた瞬間、筋肉量の多いバクラに簡単に振りほどかれてしまうだろう。それまでに、目的を果たさなければならない。

「ん、ふっ、んん、んっ…」

舌を絡めて根元をくすぐったり、上あごを舌先で撫でたりを繰り返すと心地よさそうな声と共にバクラの体が震える。ぎらついた瞳はとろけた様なものに変わり、うっとりとした瞬きもするようになる。
そろそろ頃合いか、と思いながら、舌先に力を込める。

「んぅ、んっ!?ん゛ーーー!!!」

さっきまでゆるい快感に浸っていた声がくぐもった叫びに変わった。それもそのはず、硬く尖らせたオレの舌で、バクラの口内炎を舌で思いっきりつついたのだ。
そのまま舌先で口内炎の周りをくるくるとなぞったり、ぐりぐりと抉ったり、優しく嘗めてみたりといたぶりながら大きさと炎症具合を確かめる。
ちょうど治りかけのそこはクレーターのようになっていて、ぐちぐちと出っ張りをひっかけるように舌を動かせばバクラの目尻に涙がにじんだ。目元が赤いな、とか、痛そうだな、とか。あぁ、涙が零れそうだ、などと考えながら更に舌を動かすと、ふっと体が浮いた。

状況が理解できないままに周りを見回すと、とんでもない怒りの形相を顔に張り付けたバクラが下にいた。殺気だけで小都市の一つや二つ壊滅させられそうだが、口端から垂れる唾液がアンバランスで乾いた笑いを洩らすと、ビキリと頬に血管が浮いたのが見えた。
殺気に中てられながら、何故オレがバクラを見下ろしているんだ?と混乱していると、首の圧迫感でようやく現実に引き戻される。なるほど、胸倉を掴まれて吊り上げられているのか。冷や汗がさっきの何倍もあふれてくる。笑えないぜ。

「あれ、バクラ、その、ちょっとした冗談じゃないか。ほら、口内炎って乾燥がよくないらしいし、オレのを分けてやろうと思ってな。だからほら、そうだ、薬買ってくるぜ」

「死ね!!!!!」

弁解虚しく、オレの体はバクラのアッパーを食らい宙を飛んだ。

その後、二人分の口内炎の薬を買いに行ったのは言うまでもない。
今度は薬の代わりに塩を塗ってみるか、と考えながら。




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ギャグっぽくしようと思ったら王様がド外道になりました。
口内炎痛いなー盗賊王も口内炎なればいいのにかわいい絶対、なんて不純な気持ちの塊から出来ました。
でも、あれだけダイナミックな食べ方してたらいつか噛むとは思ってます。大人しくご飯食べる現代盗賊王もとんでもなく萌えますが。

ちなみに、塩はとても効きますがとても痛いです。機会があったらお試しあれ。


2014.04.20



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