▼報われないものを知っている 獏バク寄りのばくばく 黒い宿主と立場弱い(と言うかヘタレな)バクラ。 究極の闇のゲーム前。 殺伐と言うかトゲトゲしい。 ほわほわ電波な宿主なんていない。 「多分お前、負けると思うよ」 美術館の隠し部屋、埃と塗料の混じった不快な空気を更に不快にさせる一言がポツリと落ちた。 無表情のまま宿主の出方を伺えば、こちらのことなど素知らぬ顔でうんうんとなにやら思案している。 生白い指が一体の人形を取り、弄びながら土台の上をあちこちさ迷う。結局置き場が決まらなかったのか、人形はテーブルの端に避けられた。 バランスを崩した人形はコトリと音を立てて倒れる。僅かに舞い上がった砂埃が人形を包んだ。 それきり何も言ってくることはなく。人形の配置を組み替えたり、建造物に塗料や砂を吹き付ける。 「どういうことだ」 無言を貫く宿主に痺れを切らして口を開けば、薄い唇が少しもったいぶるように動く。 こちらを見向きもせずに、言葉が紡がれていく。 「だって前も、って言うかお前が勝ったことなんてないじゃない。今も昔も負け犬人生まっしぐら、ってやつだね。かわいそー」 昔は知らないけどそうだったんでしょ、などと笑いながら付け足す宿主に殺意が沸く。 こんなガキの一人や二人、洗脳することも壊すことも、殺すことも容易い。だが、今は手を出せない。 ジオラマは完璧な状態でなければ意味がないのだ。そのためには、この宿主は必要不可欠なものである。 ただの拘りと言ってしまえばそれまでだが、三千年前からの悲願と因縁のためにも、完璧な状態で、遊戯を、ファラオを、完膚なきまでに叩き潰さねばならない。 そうでもしなければ、この衝動は収まらない。 そして、これはオレと王だけの戦いではない。たとえ自覚は無くとも、器同士の戦いでもあるのだ。 前の様に、死なせるわけには行けない。 悔しさと苛立ちに歯噛みしながら、意味はないと知っていても反論する。 「オレ様が何年生きてると思ってんだ。勝ったことだって、ある」 言葉尻が少しすぼんだのを悟られたようで、くすりと微かな笑い声がよどんだ空気を揺らした。 勝ったことはある、それは事実だ。けれど、今も、三千年前も、勝ちたいと、勝たなければならない相手には勝てないのだ。 「あぁそうなの。別にどうでも良いんだけど。でも少なくともさぁ、もう一人の遊戯くんには負けっぱなしなんでしょ?笑っちゃうよね。三千年前も負けっぱなしだったの?もしかしていつもの、表の遊戯くんにも勝てないんじゃないかなぁ。お前はいっつも一人だもんね」 関心や興味など無いようで、本当にどうでもいいらしい平坦な声で辛辣な言葉を吐きつつも、ジオラマを作る手は器用に動き続ける。 人形や家々を配置し、見せつけるように土台に砂を散らす手を掴もうとしてやめた。所詮触れることもできないのだ。 屈辱に歪む表情を精一杯隠すようにして宿主を睨んでも、見向きもしない。沈黙で応えられる。 「一人なのはてめぇもだろ。宿主サマよォ。ヘッタクソな友達ごっこは楽しいかい?」 精一杯の皮肉を嘲笑にのせて放てば、人形のように感情のない目がちらりとこちらを見た。 視線が絡み合った瞬間、僅かに愉悦のような光が宿ったのは気のせいだろうか。 「報われないよね、お前って」 にたり、と。普段見せることのない冷たい目で不気味にせせら笑う。 全てを見通したようなその目を、潰してやろうかと思った。 ---------------------- 当サイトのばくばく(獏バク)基本形。 前についったーのお題で出たものをぽちぽち書いていて、それをサルベージしてきました。 タイトルもお題からお借りしました。 「宿主」であり、「器」である以上、バクラさんの立場は結構弱いんじゃないかと。 原作では結構好き勝手してますけど、本格的に殺そうとしたことは無いし(TRPG編のアレはバクラさんにとっても予想外と言うか事故だし)、逆らえなかったら可愛いなと。 黒幕、と言うかGM的ポディションの宿主様素敵だと思うんです。 2013.06.17 top |