▼追走 現パロ転生設定王盗 割と平和 もうお決まりになってしまった、二人並んで歩く帰り道。 仲良く手を繋いで、なんて甘ったるいものじゃない。ぎゃんぎゃんと言い争いながらも何故か一緒にいてしまうのは、腐れ縁と言うものなのだろうか。 ふわぁ、と大きな欠伸をしながら歩くバクラを見上げる。今日は六時限目の数学で抜き打ちテストがあったから、やたらと疲れた様子なのはそのせいだろう。 「バクラ、どうする?今日はどこか寄るか?」 「ん、あー、いいや。だりぃから帰る」 声をかければ、いかにもだるいと言った様子で、バクラは溜息を吐きながら答えた。 「一緒にゲーセンでもどうかと思ったんだが」 「オレ様は疲れたんだよ。あー!チクショウ、ハゲのやつ、抜き打ちとかめんどくせーことやってんじゃねぇよぉお」 肩にかかったスクールバッグを乱暴に持ち替えると、背を伸ばして唸る。首をゴキゴキと鳴らすその姿は、体格や人相も相まって高校生と言うよりは任侠の者だ。気の弱い者なら、目が合っただけで殺されると錯覚するほどだ。 「お前は普段頭使わないからな。それで疲れたんだろ」 「うるせぇな、ぶち殺すぞ」 冷たい眼光でこちらを睨んでくるバクラも、見慣れればそこまでの迫力はない。「本当のことだろ」と、余裕たっぷりの笑みを浮かべて逆に煽ってやれば不快そうな舌打ちが返ってくる。 バクラのつま先が歩道に転がった小石を蹴飛ばす。苛立った時の一つの癖だが、こういう子供っぽい拗ね方をするところが何とも微笑ましい。言えば足が全力で振りかぶられるだろうから黙っているが。 眉間にしわを寄せ、少し唇を尖らせるバクラの横顔を見て、これまでの経験からまだ大丈夫だと判断。喉で笑いながら更に煽る。 「まぁ、あのゲームも頭を使うからな、バクラには難しいだろ」 にやにやと笑いながらバクラの顔を覗きこめば、無表情で紫の瞳だけが爛々と殺意を湛えていた。やりすぎたか、と思うも、もう止まれない。負けじと挑発するように鼻を鳴らす。 あのゲーム、とは、ゲームセンターに備え付けてある筺体の格闘ゲームのことだ。 バクラは、もちろんリアルファイトでは強い。ゲームの腕も中々なのだが、何故かオレにはあまり勝てない。運が悪いのか、土壇場での判断力の差なのか、それとも生まれ持った才のせいか。 不意に飛んできたバクラの左の裏拳を、軽く仰け反って避ける。最初の頃は避け切れずに額を中心に襲う痛みに悶絶したものだが、軌道の読めた今となっては、当たることはまずない。 「てめぇ、いい度胸じゃねぇか」 バクラは空振りに終わった拳をゆったりとした動作で戻しながら、ぴきぴきと額や頬に筋を作りながら口許をひきつらせる。慣れていても、やはりドスの効いた声と迸る殺気は冷や汗をかくほど恐ろしい。 「いつまでも勝ち逃げで終わらせるかよ!今日こそぜってー勝つからな!!」 好戦的に歯を剥き出し、ずかずかとゲームセンターに向けて歩き出すバクラの後を呆れたように笑いながら着いていく。 傾きかけ、輝きを増した夕日が銀の髪を照らす。見慣れたはずのその光景に、ふと既視感を覚えて立ち止まる。 オレが立ち止まったことに気付いて、バクラも立ち止まる。 「おうさま?」と首をかしげながら振り返り、腕を掲げた。 「何してんだよ、早く来いって」 そう言って掲げた手を招くように動かすと、斜陽を受けて褐色の肌が紅く輝く。 瞬間、目の奥で強い閃光が瞬いた。記憶の片隅でぎらりと激しく輝く金色、と、纏わりつく緋、それは確かにオレと、アイツの首にも―― 「アテムッ!!」 いつの間にか目の前に立っていたバクラの怒鳴り声に、びくりと肩をすくませて我に帰った。無視されたのが相当お気に召さなかったのか、苛立った表情を隠そうともせずに、バクラは舌打ちをする。 「いきなりどうしたってんだよ、オレ様が親切に呼んでやってるのに無視しやがるし」 「あ、あぁ、悪いな。ちょっと考え事をしてたんだぜ」 「……なに、考えてたんだ」 僅かに落ちた声のトーンに違和感を覚えるが、「たいしたことじゃない」と返せば、興味など無いようで鼻で笑われる。小馬鹿にしたような態度にムッと眉をしかめてもバクラが気にする様子もない。いつもの、ことだ。 「ま、テメーの考えてることなんざ興味ねーけどよ。どうせくだらないことだろ。でもムカつくから明日の昼飯おごれよ」 「勘弁してくれ……財布が持たないぜ」 「今日のゲーム代でもいいぜ」 ぎらりと目を輝かせるバクラに、仕方ないと肩をすくめるふりをしながら目線を向けて挑発する。 「勝てたらな」 「しかたねぇな。今日こそは勝つからその言葉、覚えとけよ」 歯を見せながらけらけらと悪戯っぽく笑うと、上機嫌で歩く速度を上げる。 そういえば、バクラはいつからオレのことを『王サマ』なんて変わったあだ名で呼んでいんだろう。出会った頃から、それよりもっと前だった気がするが、いつだっただろうか。 考えに気を取られて歩みが遅くなったオレに、また「王サマ」と声がかかる。またぼんやりしていたら、バクラのことだ。今度は殴りかかってくるだろう。 苦笑しながらバクラを見ると、無邪気に口端を吊り上げて小さく笑っていた。 そのまま早足になったバクラを追いかけるのに夢中で、いつの間にか追想は頭から消えていた。 『このままで、思い出さなくていいんだ』 ------------------------------------ 1/18・きいちさんお誕生日おめでとうございます!遅刻です! 王盗甘々現パロと言う素晴らしいリクをいただきまして、書かせていただきましたが、そんなに甘くないです。予告はしましたので許してください。 愛と気持ちだけはこんもりこもってます。 これからもよろしくお願いします!おめでとうございました! 2014.01.22 top |