▼深淵の怪物

捏造セト盗
当たり前のようにセト様のお部屋に盗賊王が入り浸ってます。
性格もだいぶ捏造ですので注意。























「こう見えてオレ様、あんたのこと結構気に入ってるんだぜ」

先程までは暇そうに、鈍く輝く短刀を月明かりに翳していた見慣れた侵入者は、沈黙に耐えかねたのかぽつりと口を開いた。
突然かけられた声に驚くこともなく、セトは向かい合っていた机から視線をずらして盗賊の方を向いた。
それに満足そうに笑うと盗賊は立ちあがり、セトとの距離を詰めていく。そして「その目」と、きらびやかな黄金や宝石を嵌めた指でおもむろに藍色の瞳を指差すと、瞳の持ち主は怪訝そうな表情を浮かべた。

「力が欲しくてたまらねぇって目だ。あんなガキなんてブッ倒して、王様になっちまえばいいのに」

扇情的に頬笑んでそのまま頬に滑らせようとした手が、セトの手によって叩かれる。
乾いた音に驚いて僅かに見開かれた瞳が、いじけた様にじとりと睨みつけるものに変わる。唇を尖らせながらも触れることは諦めたのか、巻子を隅に押しやり机に腰を下ろした。明らかに不満と言うセトの顔を見て、うっそりと笑った。

「ふざけるな!私はファラオに忠誠を誓った身、これ以上の侮辱は許さんぞ」

苛立ちに任せて言い放った瞬間、盗賊の唇がひくりと痙攣した。見る見るうちに先程の余裕は無くなり、口角は下がり瞳孔が開いていく。

「皆サマで声を揃えてファラオファラオって。よっぽどファラオがお好きなようで。そんなにあのガキが大事かねぇ、平和ボケしたアクナムカノンの息子だぜ」

平淡な声で表情を変えずに一息で言いきると、考え込むように目を伏せた。銀の長い睫毛が、月光を受けて頬に長い影を落とす。
呪詛にも聞こえる言葉の群れに、セトは何も言い返せずに唇を噛んだ。否定をしようにも、盗賊の背後に揺らめく影を感じてそれができない。何より、盗賊から発せられる悪意を含んだ空気がじとりと纏わりついて、そのおぞましさに耐えることに必死だった。
固まったセトを見ると、盗賊は愁いを吐き出すように、ふっと吐息混じりの微笑をしてから強い眼差しを向ける。

「オレ様は、セト様の方が王に向いてると思うんだがな」

「…何が言いたい」

侮辱の言葉を吐き続ける盗賊の口を塞ぐのは簡単だが、セトは敢えて目を合わせて続きを促した。未だ底の知れない闇を纏うこの男は、何を考えているのか。興味が無いと言ったら嘘になる。

「オレ達、手を組んだら上手く行くんじゃねぇのって」

まるで別人のように、悪戯を思いついたような、どこか幼さと無邪気さを残した表情で盗賊は嗤う。
挑発するように口端を歪め、答えを待つ盗賊を、セトは冷淡な瞳で受け流した。

「くだらん。戯れ言が言えぬよう、今すぐその口を引き裂いてもいいんだぞ」

「セト様はお優しいからな、そんなことしねぇって信じてるぜ」

うっとりと囁いて甘えるように身を寄せる盗賊を、セトは舌打ちをしながらも咎めることはない。それでも、その心中は穏やかではなかった。
――何が『信じてる』だ。その瞳に、一度でもオレを映したことなど無いくせに。
そう叫びたいのを堪えて、行き場のない感情に任せてただ拳を握りしめる。
それは、嫉妬とも苛立ちともつかない、胸に重くのしかかって締め付けるようなわだかまりだった。恋愛のように甘く焦がれるようなものでもない。この感情にあえて名を付けるのであれば、セトは庇護欲と名付けただろう。
それを認めなかったのは、二人のプライドとほんの少しの杞憂のためだ。認めた瞬間、全て渇いた砂の城の様に崩れ落ちてしまうのだろうと、何も言わずとも悟っていた。

盗賊は机から降りて、セトの肉体を包む柔らかなリネンの布に頬をすりよせる。心地良さそうに目を細め、腕を絡めることをセトは許した。
身体に絡みつく盗賊の体温を感じながら、セトはふと考える。そういえば、こいつがこの部屋に転がり込んできたのはいつのことだっただろうか、と。初めて出会ったときも、こんなに、人の心の臓まで侵していくような、冷ややかな温度だっただろうか。
そんな考えをゆるく首を振って払い、煌めく銀の髪を眺める。セトの脳裏に先程盗賊が月光に翳していた短剣がよぎった。アレは何度緋に染まったのか、そして、この髪も何度血を浴びたのか。答えを知る者は既にこの世に居らず、盗賊でさえ覚えていないと言うだろう。
そんな獣のような男が、今は赤子のように甘えている。そう思った瞬間、途端にこの盗賊が得体の知れないもののような錯覚を感じ、同時に酷く儚いものに見える。セトが盗賊の背中に腕を回すべく、そっと腕を上げた。


俯いて胸にもたれかかる盗賊の瞳の中には、ただただ暗い、蝕むような深淵の闇が息づいて広がっていることを、導かれるように手を伸ばしたその身体が、何かに喰われていることを、セトはまだ知らない。



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2人ともプライドが最優先なので、守りたい守られたいなんて絶対言わないような気がしますし、もしも言ったとしても、どちらかが拒むのだと思います。すれ違い。
汝が深淵を覗きこむとき、深淵もまた汝を覗きこんでいる。みたいな。
けれど、セト様はまだ深淵があることにも気付かず、盗賊も深淵を見せる気はない。内側にそっと宿して、誰にも触れられず、見られず、照らされないところで、その闇を深く濃く宿していくのです。そしてどんどん怪物に近づいていく。と。(ここまで妄想)


2014.01.09(01.11 加筆)



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