▼白刃

3000年前
勢いだけのよく分からない何か。
一応事後。微妙に殺伐でいかがわしい。

























何度目か分からないほど回数を重ねた深夜の逢瀬、その事後。
燭台に灯る光と月の光だけが、王と盗賊の境界を明確にする。

「お前は砂のような男だな」

寝台に横たわる盗賊の髪を指先で弄びながら、王はぽつりと呟く。
王は盗賊の髪が好きだった。硬質で痛んではいるが、その美しい銀色は月光を浴ればぎらぎらと刃物の様に強く鋭く、そして儚くきらめいた。
一度日の下で見てみたいと思ったこともあったが、王が王であり、盗賊が盗賊である以上、一生叶わぬ願いだろう。

盗賊は伏せていた目を獣のように光らせて王を睨む。普通ならば尻込みしてしまいそうな気迫だが、そんな眼光に慣れてしまった王は余裕たっぷりに笑みを返す。
声を出すのがだるいのか、掠れた声で「へぇ」とだけ相槌を打ち、髪を梳く王の手を払いのける。
少し残念そうな表情をしながらも、王の手は懲りずに再度盗賊の髪に伸びた。
これまでの逢瀬の経験から、何度払っても無駄と悟って、不機嫌さを滲ませた呆れ顔で王の手を受け入れた。

「お前は欲したものをどれだけ与えても、与えたそばから飲み込んで、渇かしてしまう。自分も渇いたままに、だ」

王の目に真剣な光が宿る。その奥に隠された独占欲と憐みを、盗賊は見逃さない。
王の肩にゆるく置いていた手に少し力を入れれば、褐色の肌に硬い爪が食い込んだ。もう少し力を入れれば、この柔い肌など簡単に裂けてしまうだろう。
それを愉快そうに眺めて、喉をくつくつと鳴らし、口元を不敵に釣りあげて盗賊は笑う。右目にかかる頬の傷がぐにゃりと歪んだ。

「なら王サマは水だな。与えることと留まることしか知らねぇ、とびっきりの愚かモンだ」

目をぱちくりさせながらも、王は笑う。どうやら盗賊にも与えられている自覚はあったらしい。
頬の傷に触れるだけの口づけをして盗賊と視線を交わす。

「案外いい相性なのかもな」

「ハッ、笑わせんなよ」

ほんの少しの自嘲が混じった王の言葉を、盗賊はバッサリと切り捨てた。
そして楽しい悪戯を思いついた子供のような無邪気な顔で、王の耳元で囁く。

「なァ、てめぇが干からびるか、俺様が溺れるか、どっちが先か勝負といこうぜ」

王の体がざわりと熱を持つ。お返しとばかりに首筋を舌先でなぞれば、盗賊の体は面白いほどに跳ねた。恨めしげな眼でこちらを見る盗賊に吐き捨ててやる。

「それこそお笑い草だ」

そんなもの、共倒れしか道がないというのに。

付け足そうとした言葉を飲み込んで、盗賊の髪を愛おしそうに撫でる。
燭台の炎を受けた銀髪は血脂を纏った刃の様に赤黒く、王を刺し殺さんとばかりに鈍い光を発していた。



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当サイトの王盗基本型。
飢えすぎて一分でプロット組んだもの。
人間の可能性って無限大。王盗の可能性も無限大。

お互い相手の本質一歩手前が分かるからこその殺伐みたいな王盗が好きです。
近くにいるはずなのに心は遠いみたいな、決して本質を見せない関係が好きです。


2013.06.13



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