▼触れずじまい

ディア盗(ディア+盗)
盗賊王の一人語り。
途中に軽い残酷描写があります。
捏造全開の短文DEATH。























いつからか、オレの側にはディアバウンドがいた。
いつからかは覚えていない。ただ、自分を守らねばと、敵を殺さねばと、復讐せねばと、毎日のように考えていた頃には、すでにオレの背後で息をひそめて命令を待っていた。
白く輝く、彫像のような逞しい肉体から続く、しなやかな大蛇の頭。
自分から生まれたものだから当たり前だが、この精霊はオレに忠実で、従順で、なんでも言うことを聞く。神々しい見た目とは裏腹に、何度も望みを叶えて“守って”くれた。

だから、欲しいものは何不自由なく揃った。足りない、と、欲しい、と。ただそう願うだけで、ディアバウンドが全て手に入れてくれたからだ。
水も、食料も、服も、武器も、馬も、黄金も、人の命も。
壁を抜けられれば盗みも楽なのに。そう思えば、壁抜けの能力を披露してくれた。他の魔物に襲われた時も、一撃で吹き飛ばしてくれた。主人のオレ様想いの、とても優秀な精霊。

どれだけ厳重な罠や石壁も、ディアバウンドがいれば簡単に抜けられる。衛兵共なぞ、瞬きの間に殺してくれる。なんて素晴らしいのだろうか。
それだけじゃない。怪我をすれば薬を、狂わんばかりの憎悪に飲み込まれそうになる時は血を。簡単に手に入れて、オレに捧げてくれる。
そんな献身的なこいつに、オレは力を手に入れて捧げる。そして、オレの力に呼応してこいつも強くなる。まさに共存するにふさわしい関係だ。

そう、こいつはオレにとってかけがえのない存在だ。
オレの正義を象徴し、全てを知り、共に生き、感情を共有する、唯一の理解者。こいつさえいれば、敵などいない、味方も必要ない。
蛇の胴体が、オレを守るようにとぐろを巻く。冷たい爬虫類の眼がこちらを見つめていた。
見上げれば雄々しい表情。微笑んでいるようにも見えた。
辺りには、千切れた腕や脚や胴体、血の海が広がる。こいつらは誰で、なんでこんなことになったのか、考えかけて止める。どうでもいいからだ。
ディアバウンド以外の、他のモノなど無駄なだけだ。

「だって、オレの欲しいものは、全部お前がくれるもんな」

ふと思い立ってディアバウンドに触れようと伸ばした手が、すり抜けて虚空をさ迷う。

「あぁ、そうだ。お前には触れられないんだったか」

欲しいものは全て手に入れてきたつもりだった。全て貰っていたはずだった。

ただ、温もりだけは決して手に入らなかった。



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過保護ディアさんと、肝心なものは手に入れられない盗賊。

短い…!!そして不完全燃焼感すごい…!!
ディアと盗賊の関係が物凄く好きなので、今度はもうちょっとちゃんとしたディア盗書きたいです…


2013.12.22



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