ざばざばざば、と、それだけが延延と鼓膜の奥へと運ばれていく、ざばざばざばざば、ざば。傘なんてどうでも良かった、持っていたような気もするけれど、豪と鳴る風にとうの昔に持っていかれたような気がする。どうでもいい、そんなものはどうでも、いい。水分を吸った前髪は重く垂れて視界を狭めるけれど、見たいものはきちんと見えていた、否、見なくて済むなら見たくなどなかった。知りたくない現実、あまりにも残酷なこの世界、(あゝ、嗚呼、分かっていた、神など存在しないのだ!)
 握り締めた掌に伸びっぱなしだった爪がぐずぐずと食い込んで遂にはぼたりぼたりと赤いものをこぼし始めているようだったけれど、微かな鉄のにおいだけを残してアスファルトへと同化してゆく。(ざばざばざばと雨が降る、ぼたぼたぼたと血が落ちる。)これは私の怒りだろうか、それならばどちらが私のそれなのだろうか。この手から落ちるその液体が、いま頭上から叩きつける洪水とすげ変わってくれるのならば、それこそが私の怒りだ。醜い叫びを上げたりなどはしない、みっともなく泣きじゃくりなどもしない。静かに、しかしながら周囲を威圧する、身に纏うのは冷たく青い炎などではない、熱く赤い雨だった。許してなどやるものか。お前の仇は必ず取ろう。私は君を忘れはしない。

 汚い地面に広がり匂う甘味。
 雨にふやけてひしゃけだコーン。

 私のアイスクリームは、死んだ。


20130520/15分
お題:真紅の怒りをまといし時雨
必須条件:予想外の展開

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