※山崎退 (甘微裏)
「名無しちゃんは本当に星が好きだよね」
屯所の庭に天体望遠鏡をセットして天体観測をしていると、着流し姿の山崎さんが姿を見せた。
はいどうぞ、と温かいコーヒーを渡されて思わず頬が緩む。こうやって小さなことにも気を利かせてくれる山崎さんに恋をして、念願叶って恋人同士になれたのはつい一月前のことだ。
「ありがとうございます。だってこんなに綺麗な星空ですよ?観測しなきゃ損じゃないですか」
う〜んそうだね、と首を傾げながらも隣に座り、私の趣味に付き合ってくれる山崎さん。大好きな星より、もっと好きな人。
「あっ、あれ……」
不意に山崎さんが声を上げ、夜空を指差した。
「ねぇ名無しちゃん。あの星、ミントンのラケットみたいじゃない?」
山崎さんが指差しているそれは、恐らくスバルだろう。羽子板のように見えると言われているその星座も、山崎さんに言わせればミントンのラケットになってしまうのか、と少し笑ってしまう。それでも、大好きな人が星に興味を持ってくれたことが嬉しくて、私は夢中で説明を始めた。
「スバルですよ、山崎さん。正式にはプレアデス星団。実は数百個の星が集まった星団なんです。スバルっていうのは和名で"統ばる"からきてるんです。万葉集や枕草子なんかにも記述があるんですよ!」
そう言って山崎さんを振り返ると、彼は少し困ったように笑っていた。
──ああ、しまった。熱くなりすぎた。
「すみません。つまらないですよね、こんな話……」
あわてて謝ると、違うよ、と山崎さんは私に向き直った。
「あんまり楽しそうに話すから、星に嫉妬しちゃった」
ギュッと抱きしめられ、耳元で囁かれた言葉に顔中が赤くなる。
「あ、あたしが一番好きな星は山崎さんです……」
山崎さんの体温に目眩を感じながらそう呟くと、すぐさまその唇を塞がれた。
「あっ……やまざきさ……ふっ……ん……」
「今のは君が悪いからね。天体観測は一時中断」
「えっ、あっ……」
半強制的に腕を引かれ、そのまま屯所内、山崎さんの自室へと連れ込まれる。敷きっぱなしの布団に放られ、そのまま山崎さんの唇が首筋、胸元へと移動していく…。着崩していた隊服のシャツは、いつのまにか全てのボタンが外されていた。
「あっ……山崎さ…んっ……」
冷たい外気で冷えきっていた体も、山崎さんの愛撫で瞬く間に高ぶっていく。自分のそこがじんわりと濡れてきているのを感じ、私は更に赤面した。
「名無し、かわいい」
耳元で囁かれれば、その心地よさにクラクラする。山崎さんの、少し赤みを帯びた頬も、時折唇漏れる色っぽい声も、視界に広がる逞しい胸板も、全てが私を狂わせる媚薬だ。
星なんかよりも、私はずっとずっと山崎さんに夢中なのに、どうしたらわかってもらえるのかな……。
うまく回らない頭でそんなことを考えていると、再び山崎さんの声が降ってきた。
「入れるよ?」
返事をする間もなく、私の中は山崎さんでいっぱいになる。
「あっ………」
思わず締め付けてしまうと、山崎さんは「バカ」と少し眉間に皺を寄せた。あっ、かわいい……。
夜はちょっぴり意地悪な山崎さんが、困ったような表情を浮かべるのがたまらなく嬉しくて、私はいつもより大胆になっていた。
「山崎さん、好きぃ……」
上目遣いで彼を見上げ、吐息混じりに呟くと、私の中の山崎さんが反応してくれて、更に悪戯心が芽生える。体を起こし、山崎さんの胸元に手を伸ばしたその時、部屋の襖の向こうから鬼副長の声がした。
「名無し!テメェ星見たら望遠鏡片付けろって何回言わすんだ。どうせザキの部屋にいんだろ。開けんぞ」
「「ダメです!!!」」
私と山崎さんは同時に叫んだ。まさかこのタイミングで、土方さんの雷が落ちるとは……。
「副長すみません。今はとてもお見せできるような状況じゃないので……」
山崎さんはそう言うと、やれやれといった様子で私から自身を引き抜いた。
「んっ……」
思わず漏れた私の声に、土方さんは何となく事情を察してくれたらしい。
「お前ら……その、何だ……屯所内では程々にっつーか……まぁ、とりあえず済んだら望遠鏡片付けろよ」
土方さんの足跡が遠ざかると、山崎さんは着流しを着て襖を開けた。冷たい空気が一気に部屋に流れ込んできて、裸のままだった私は思わず布団に潜り込んだ。
そうして横になったまま、山崎さんが望遠鏡を畳んでくれているのを眺める。ああ、素敵な恋人だなと思った。
「山崎さん、愛してます」
どうしても今伝えたくて。そう付け足すと、やっぱり照れている山崎さん。そんな彼の頭上に広がるのは、美しい、私の大好きな星空。でも山崎さんは、例え星の見えない夜も、私の側で輝いてくれるから。
大好きです、山崎さん。
彼が部屋に戻って来たら、もう一度伝えてキスをしようと思った。