▼ いち
自分が生まれた意味を考えたことはあるだろうか。誰もが生まれて、死んでいく運命。寿命も人生も人それぞれだ。歩む道を決めるのも。だったら、自分が信じた道を進むべきだ。なんて、"俺"にはそんなことできないのに…
「また帝国が喧嘩ふっかけて来てるみたいだぞ」
「いやねぇ…ここまで攻めて来なきゃいいけど」
商店街を歩くと、決まって聞こえる戦争の話。
帝国と呼ばれている国『アンダスト』は、軍事力も政治力もトップの国。魔女が現れた時から小国を制圧して領土を広げている。人間と魔女どちらの味方かと言えば、魔女の方だろう。魔女に屈してまで王様は自分の命を守りたいようだ。と隣国ではもっぱらの噂らしい。
「来たな、テッド」
道行く人に耳を傾けていると、いつの間にか目的地の鍛冶屋に着いていて、大将のおっちゃんが声をかけてくれた。
「おう!兄ちゃんは?」
「中にいるぞ」
後ろの工房に指をさすと、大将は売り物の剣を磨く。
遠慮なくカウンターに入り、大将の後ろにそびえたつ立派な鉄扉を開ける。
熱気と鉄の匂い。カンカンと鳴る音は鉄を打つ音。
奥に見覚えある髪色を見つけて静かに近寄る。
「兄ちゃ〜ん呼んだか〜?」
「うおぉ!?びびったぁ…もっとナチュラルに話しかけろよ」
「ナチュラル…?」
鉄打ちの練習をしていたらしい兄ちゃんは、汗をタオルで拭いて立ち上がり、頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「わっちょ、」
「あんま育ってないなぁお前」
「こ、これから伸びるんだよ!多分」
「ははっ多分か」
いつものようにニコニコ笑う兄ちゃんにホッと息を吐く。でも、頭から手を離した兄ちゃんは真剣な顔つきになる。
「とうとう限界来ちまったなぁ…まぁしょうがないことなんだけど」
「…俺はもう、覚悟はできてるよ」
「おっ言うようになったな。そんなお前にプレゼント」
「プレゼント?」
兄ちゃんが作業机に置いてあった袋から取り出したのは小豆色のバンダナだった。
「これ、つけてけよ。俺もつけっからさ」
そう言われてつけてみると、兄ちゃんは笑って、同じ色のバンダナをハチマキのように額に巻いた。
「一種の願掛けみたいなもんだ。ちゃんと毎日しろよ?」
「わかった」
「お前の場合、寝癖隠しにもなるしな」
「ね、寝癖言うなよ!!」
ぴょんぴょん跳ね回る癖毛の髪を寝癖じゃないと何回言っても寝癖という兄ちゃんに唸ると、頭を軽く叩かれる。
「…頼んだぞ、テッド」
目一杯の笑顔で返す。
「おう!!」
これが最後だと思ったから。
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