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▼ いち

『異界の穴』と呼ばれる帝国の地下にある巨大なブラックホールのような穴。いつからあるのか、何の為にあるのか、誰も知らない。過去に何度も調査隊が派遣されたが、帰って来た者は居らず、安否も生死も不明で何年か前に調査は中止になった。

13年前、『異界の穴』から突如として幼い男の子が出てきたのだ。意識不明の重体で現れた少年を助けるか否か物議が交わされたが、当時の王様が治療を命令し、帝国は最善の治療を施し少年の回復を待った。

目が覚めた少年は、自分の名前を知らず、言葉もろくに喋れず、どこから来たのかも知らなかった。誰が引き取るのかと問題になったが、名乗りを上げたのは騎士隊長だった。

『騎士に育てあげる』と言い放った騎士隊長に大臣たちはこぞって反対したが、王様はそれを受け入れ、騎士にすることを許可した。

それから少年は『コウガ』と名を与えられ、見る見るうちに回復し、騎士道を学んで行った。史上最年少で騎士学校を卒業し、騎士となったのは騎士隊長にとっても驚くべきことであり、嬉しい事であったが、同時に、不安もあった。

なぜなら、少年は完全なる兵士へと成長してしまったからだ。
与えられた任務を黙々とこなし、暗殺任務にも顔色ひとつ変えず遂行して行く。若輩11歳の少年が。

***

珍しく落ち込んだ様子で任務から帰宅した日があった。同行した騎士に聞けばエルフの家族を制裁した時から様子がおかしいそうだ。

少年に問うたが、口を開こうとはしなかった。握りこぶしを作り、歯をギリギリと鳴らしている。怒っているのか、悔しがっているのか、泣いているのか、少年の気持ちを読み取ることは出来なかった。

きっと、気づいてしまったんだろう。
自分のして来た理不尽さを。
騎士の行いを。

今更変えられない自分の生き方を。

"私"は、少年の頭を一度だけ撫で、自室まで送った。

少年がこの世界の住人ではないと伝えたのはそれから後の事だ。何故伝えたのかと問われれば理由はひとつしかない。

騎士に、帝国に、縛られる事はない。
この世界の住人ではないのなら、自由に生きて構わないという事だ。

私の言葉を、彼は覚えているだろうか。



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