novel | ナノ


▼ イタズラ

どこかホラー系な音楽が街を包み、おばけかぼちゃを顔の形にくり抜いたランプがところどころに点在して、オレンジ色の光を放っている。
黒いトンガリ帽子とマント、おばけの顔が描かれたフード、様々な格好をして子供たちが走り回っている。

「…楽しそうだなぁ」

街の賑わいを楽しむ為にコウガとメリーリは散歩をしていたのだが、子供たちの楽しそうな声に、メリーリが声をこぼすと、コウガは立ち止まる。

「メリーリもああいう格好したいの?」
「ち、ちがっ!雰囲気がいいなって思っただけ!楽しそうだなって」
「そっか…」

歩を進めたコウガの隣に並んでとあるお店の前を通ると、魔女の格好をした店員が二人に近寄る。

「こんばんは!今ならカップルさん割引よ〜!!ハロウィンなグッズは当店でぜひぜひ〜!!猫耳カチューシャとかあるよ〜!!」

露骨な客引きにコウガがスルーしようとすると、メリーリは顔を真っ赤にして固まる。

(か、かか、カップル!?そう見える!?わたしたちそう見えてるの!!?)

その場を動こうとしないメリーリに、言葉をかけようとした瞬間、コウガを見て、腕を引っ張る。

「入ろうコウガ!!!」
「え」

ずるずると引っ張られたコウガは半ば無理矢理入店した。

***

「きゃーコウガかわいい!!!めちゃくちゃかわいい!!すごい似合う!!!!」
「………どうも」

狼耳やら猫耳やらのカチューシャを付けられる度に何故か興奮するメリーリがよくわからず、されるがまま状態。

「うん!!やっぱりコウガは犬耳だね!一番似合う!!これ買おう!」
「買わない」
「え!?どうして!?」
「いらない」
「そ、そこをなんとか…」
「だめ」

若干嫌そうな顔、というか嫌なんだろう。そんなコウガに負けて、メリーリは落胆し、項垂れる。すると商品が陳列された棚にエルフ耳にすぽっと収まる狼耳を発見し、コウガに気付かれないように掴んで後ろに隠す。

「じゃ、もう帰ろう。遅いし」
「うん」
「コウガ先お店出てて!わたしまだちょっとみたいから」
「え?うん」

先に出て。とは怪しい言い方だが、素直に従って店の前で待つ。少し、寒くなって来たかもしれない。

「お待たせ〜!!」
「何か買ったの?」
「秘密!」
「ふ〜ん…」

妙にニコニコしているメリーリがとても怪しい。疑いの眼差しを向けながら、二人は宿に戻った。

***

薄暗い部屋にオレンジ色の照明。なんだかこれだけでハロウィンを感じる。

「じゃじゃーん!見て見て!!」

部屋につくなり店で買った狼耳をつけてアピールすると、コウガは目を丸くしてから冷静に答えた。

「耳が四つある」
「へ?」

コウガが指さしたのはメリーリの髪飾りだ。そう言えば前にも耳に見えると言っていた。

「だから!これは耳じゃないって!」
「わかってるけど、見える」
「で、どう?」
「どうって?」
「この耳!!」

尖った耳に装着した狼耳をアピールするべくコウガに詰め寄るメリーリ。

「似合ってるよ」
「か、かわいい?」
「うん」

自分から誘導したのに嬉しくて舞い上がってしまう。
調子に乗ってもう一発イタズラをしてみる。

「お菓子くれなきゃコウガ食べちゃうぞ〜」
「僕お菓子持ってないよ」
「じゃコウガ食べちゃうぞ〜」

じりじりとベッドに座っているコウガに近寄る。

「え、ちょ、待っ」

どんどん背中を倒して避けるがついに。

「とりゃぁっ」

メリーリに抱き着かれてそのままベッドに押し倒されて、ばふっと布団が音を立てる。

「ちょ、メリーリ…!!」

慌てるコウガをよそにメリーリは楽しそうで静かに笑い出す。

「ふふふ…」
「な、なに?どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも」
「え…!?」
「……なにもしてくれないコウガが悪い」

耳元で寂しそうに囁かれて覆い被さったままぎゅーっと抱きつかれる。何がなんだかわからないがこのままではマズイと理性が警告を出して、無理矢理体を起こしてメリーリを退ける。

「コウガ…?」

ぐいっと肩を押されて、嫌だったのかと沈んでいると、前髪で隠れて見えなかったコウガの表情を見て、その思いはどこかに飛んで行った。

見たことがないくらい真っ赤だ。
それはもう茹でタコのように。

「…照れたの?」

メリーリの問いに頭を横に小さく動かす。照れたんだろう。わかりやすい反応だ。

「…コウガかわいい」

いつも余裕たっぷりなコウガが照れて何も言えなくなるのは、初めて見た。
とても、かわいくて、愛しい。

「すきだなぁ…」

無意識のうちに溢れた言葉。
それに気づくのに数十秒はようした。
我に返ってあたふたしていると、コウガが笑い出して、また、すきが増えてしまった。

「ごめん。笑ったりして」
「ううん!全然いいよ…!!むしろ…」

笑ってほしい。もっと、いっぱい。
わたしに笑顔を見せて欲しい。
いろんな、コウガがみたい。
それだけで、幸せなんだ。

「笑って欲しいなぁ」
「難しいこと言うね」
「何も難しくない!」

笑うなんてこと、メリーリに会うまでした事があっただろうか。自分が笑った記憶すらないなんて、悲しいことだ。本当の自分を知らないなんて。

「君は、いとも簡単に"僕"を出してくれるんだね」

オレンジ色の光の中で君の頬に触れると、すぐさま赤くなって、胸元にうずくまる。

「もっと引き出すもん…」
「うん。期待しとくよ」

頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。
ふと、耳に触れて見ると、真っ赤な顔をして起き上がって真ん丸目でコウガを見つめる。

「な、なな、なに!?」
「触りたくなって」
「へ!?」
「だめだった?」
「だだだ、だめなわけ… っ…さ、触りたいってわたしに?」
「メリーリ以外に誰かいる?」

疑問符を浮かべる無垢なコウガに、メリーリは無意識イタズラ小僧というあだ名を脳内でつけた。

***

「コウガは狼耳とエルフ耳、どっちが好み?」
「エルフ耳」
「そ、そそそそ、即答!!?」
「そんなに嬉しそうにしなくても」

2015/11/01

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