novel | ナノ


▼ 物色


大きな街に着くと、決まってコウガはメリーリのそばを離れない。エルフに対する迫害が著しい場合があるからだ。メリーリはどんなに罵声を浴びせられても慣れっこで右から左に流れるのだが、コウガはそれが気に入らない様子で、メリーリの後をついて歩く。罵声が聞こえても剣を突き立てたり、睨んだりはしない。ただボディガードのように隣を歩くだけ。手をあげてくれば話は別だが。

メリーリはそんなコウガの行動が嬉しくて、ついつい長めに街を散策してしまう。

「あっ!かわいいお店!」

立ち止まった雑貨屋は、いかにも女の子が好きそうな髪飾りやら置物やらが置いていて、ガラス越しに品物を眺める。

「入って来たら?僕はここで待ってるから」
「いいの?ありがと!」

店の壁に背中を預けて、店内に入るメリーリを見送る。やっぱりメリーリも女の子なんだな、と若干失礼な事を思いつつ待っていると、同世代くらいの女の子三人が近寄って来た。

「あの、お一人ですか〜?」
「暇なら一緒にお茶しない?」
「ねぇ行こう?」

これは、自分に言っているんだろうか。
見事に取り囲まれているのだからそうなんだろう。メリーリとしか女の子と話さないからどう返したらいいかわからず言葉に詰まっていると、腕組みしていた右手を強引に引っ張られる。

「無視はヤダ〜」
「だんまりって事は、いいってことで!」

黙っている=了解 になるのか、知らなかった。なんて考えている場合ではない。

「わぁ!見た目と違って筋肉ある〜!」
「すごぉい!!」

ベタベタ腕を触ってくるのに寒気が走ったが、それ以上に寒気が走るオーラを感じてしまうことになった。

「コウガくぅん?何をしてるのかなぁ??」

いつもとは違う黒くて甘ったるい声。
ブリキのおもちゃの様にギギギと恐る恐る振り返ると、満面の笑みで拳をボキボキと鳴らすメリーリが立っていた。

「随分楽しそうだねぇ〜」

ニコニコ笑ってはいるが、怖い。すごく怖い。今まで見てきた中でこんなにも恐怖を感じたものはあっただろうか。いや、ない。断言できる。

コウガに近寄っていた女の子たちはメリーリが放つ厳ついオーラに圧倒されてそそくさと逃げた。取り残されたコウガは胸ぐらを掴まれる。

「ツラ貸せ」

聞いたことのないドスの効いた声に、「はい…」とだけ答える。冷や汗が止まらない。今日が命日かもしれないと悟ったほどだった。

***

コウガは、かっこいい。
そんなことは一番わかってる。
顔は整ってるし、剣の腕は立つし、強いし、伊達眼鏡かけてる時もかけてない時もかっこいいし、料理も出来て何事も要領よくこなすし、それでいてかわいいところもあるし、これでモテないなんて話はない。

カエル好きなのはタマに傷だけど。

「なんで断らなかったの?」
「どうしたらいいか…わからなくて…」

コウガに獣耳が生えていたらしょんぼりと垂れ下がっているだろう。そんな表情をしていた。かわいいと思ってしまった自分が情けないほどに。

「じゃ、わたしを置いて一緒にお茶したかったんだ?」

意地悪に問いただして見ると、しょんぼりしていた耳がキッと立つ。…生えてないけど。

「メリーリを置いてなんて、違う」
「違うなら、なに?」
「君以外の誰ともいたくない」

予想外の言葉に顔が赤くなってしまう。
そんなこと、よく真顔で言えるものだ。
腕で顔を隠すと、コウガが腕を掴んできた。

「どうしたの?」
「っ! な、なんでもない!!」
「…機嫌治った…?」
「治った!!もう!コウガのアホぉ!!」

言って、抱きついてみた。
ただ単に抱き着きたかったのもあったけど、あの女の子に腕を触られていた時嫌そうな顔をしていたから、わたしはどうなんだろうと確かめたくなったのもある。
嫌なら突き飛ばされる。単純なこと。
ダメージは、大きいけど。

「………。」

コウガは、無言で抱き締めてくれた。
ドキンと、胸が高鳴る。

「ごめん…気をつける…」

コウガなりに反省していたのだろう。
言葉に重みがあった。
初めての事で戸惑ってしまっただけなんだ。本当にそれだけなんだ。
嫉妬してしまったのが恥ずかしい。

「ううん…わたしも…ごめんね」
「うん、怖かった」
「それ言っちゃう!?」
「怖かったからね」
「二回も…!!」

もう、表情は柔らかくなっていて、二人で笑い合う。

すると、何かを思い出したようにコウガから離れたメリーリは買い物袋をガサゴソと探り始める。離れてしまったのが少し寂しく感じた。

「これ!コウガにプレゼント!」
「僕に?」
「そ!開けてみて!」

リボンがついたピンク色の包みを渡される。プレゼントなんて初めてで内心ドキドキしながら開けると中から出て来たのはアイツだった。

「カエル!!!」

緑色のかわいいヤツだ。手のひらに乗るくらいのサイズで首元に赤いリボンが巻かれている。

「ガマ口財布だよ!二人で使う分の財布欲しいなぁって思って!コウガ、カエル好きでしょ?」

嬉しさのあまり目をキラキラと輝かせているコウガは"16歳の男の子"に見えた。

「ありがとう。大切にする…」
「使ってよ…?」
「それは…どうかわからない」

じーっとカエル財布を見つめる。
なんだこの愛くるしい顔は。目と鼻と口の位置が黄金比率じゃないか。選んだメリーリに賞賛の限りを尽くしたい。

「メリーリ、ありがとう」
「そんなに嬉しかったんだ」

カエル好きなコウガも、かわいいからいっか!なんて…

「…使ってくれるよね…?」
「そのうち…」

ガマ口カエル財布はしばらく飾られていた。


2015/09/14

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