任務を終えてアナグラに戻ると決まって出入口に彼女はいる。何か言うでもするでもなく、視線だけ俺に向けて帰って来たのを確認すると自室に戻る。
どうかした?なにかあったか?
なんて聞いても彼女は何も答えてくれない。無口なのか、恥ずかしがり屋なのか、まぁ前者の方だろう。
彼女から突然ピアスを渡された日は、よく覚えている。いつものように討伐を終えて自室に戻ろうとした時だ。
「ねぇ」
服の袖を引っ張られて振り返ると、人と関わらない事で有名な彼女が俺に手を差し出してきた。何事かと視線を合わせると、手を出すように言われて、手のひらに乗せられたのはピアスだった。
丁度欲しいと思っていたピアスで、どうしてまともに会話したことがない彼女が持っていて、しかも今渡されているのかがよくわからなかった。
疑問符を浮かべる俺を気にもせず、彼女は掴んだ袖を離す。
「いらないなら、捨てていいから。じゃ」
何事もなかったかのようにあっさりとその場をあとにしようとした彼女に、混乱する頭を無理矢理働かせて正直な言葉を告げる。
「大切にする!さんきゅーな!!」
後ろ姿だったけど、嬉しそうに歩を進めているように見えた。
それからだ。彼女が気になり出したのは。
「ウタ君。トウモロコシ」
名前で呼ばれるのは嫌いだけど、彼女から呼ばれるのは嫌じゃない。むしろ呼んでくれるのが嬉しいくらいだ。
「さんきゅー!!」
目一杯の笑顔で答えよう。
彼女の前では。
いつか、彼女の笑顔が見たいから。
「ピアス、似合ってる」
「そりゃぁ、ミコが選んでくれたし!」
肌身離さず付けていよう。
このピアスを。
おわり
10月09日 0時10分