エマリア
大きな一つの眼。
たてがみのような緑色の髪。
口から覗く鋭い牙。
赤い金色の刺繍がされたヘアバンド。
赤いコウモリのような翼に緑色の尾。
黒いコートにその矮躯を包んでいる。
元大聖霊や一つ眼ゆえに蔑ろにされ、彼女は魔に身を堕とした。
美しかった半透明の三対の羽は見る影もなく、歯は鋭く尖り、尾が生えた。
エマリアはふらふらとさまよった。その中で見つけたひとりの魔人。彼はとても賢く、それでいて臆病で寂しがり屋だった。
知を求め貪欲に識を貪る。
彼は、わたしだ。
赤い髪、金色の目、捻れた角。
異なる姿だけれども、性も違うけれど。
エマリアは数十年間、じっと彼に張り付いた。チラチラと見られていたが、お構い無しにずっとべったりとはりついた。
ついに彼がしびれを切らして話しかけてきた。
-何か…僕に用?
-そう、なんだ…ねえ、アナタ、名前は?
-…わかんない。
-…!うん!
-クェース、ぇ、ぇん、…
-う、うん!僕はクェース!よろしくね、エマリア!
彼は元々シャドウだったというのだから驚きだ。聖霊の気配は確かにするのだが。
彼の、クェースの魔力で私はどんどん大きくなり、クェースよりも大きくなった。
クェースはひたすら人里に赴き本を求め賢者に話を求めた。前よりも大きくなっている知識欲。底はないのだろうか。
何があったのかは知らないが、クェースは知識よりも力を求めるようになった。次々と各地に君臨する者共に殺し合いを挑み、殺し、服従させ、そしていつの日か、クェースら魔王になっていた。
私よりも遥かに背が高くなり、声も低くなり、体格もがっしりとして。
彼は、魔王だ。
わたしではない。クェース・ディライなのだ。
もどる