カロスィヴァ帝国陸海空軍総司令官。
イストラーヴァ・ディクサー 15歳。
誕生月の９月、ヘンゲーダーク戦にて死す。

…これが夜凪の持つ一番古い記憶だ。
黒い髪の少女の死が苦手で生きていようとも近付くことは少しはばかられる。昔の記憶が何か関係しているのか。イストラーヴァというのは何か懐かしい。そしてほんのりと残る別の名前。口に出せば胸のあたりがざわざわと落ち着かない。


白い、ワンピースがよく似合う。
茶色パンプスがお気に入り。
黒いストレートロングで
大きな青いリボンの付いた麦わら帽子。


人を型をとれなくなって、黒い渦になって浮き上がる。
ずっとずっと、遠い記憶に浸るといつもこうだ。ぐらぐらして、ゆらゆらして、ふらふらして、浮き上がる。

ひらり、青いちょうちょが前を通る。
ああ、かわいそうな人間が、またひとり、ふたり、さんにん。
ちょうちょについていく。光る青に赤が混ざって紫に。
指先にちょうちょがとまる。私の中にすいこまれる。赤い血、ちぎれた首、驚愕の顔のまま、ぽっかりと口を開けてこちらを見つめる清澄な瞳。
手を翳して瞳をとじる。

ああ
かわいそうに、かわいそうに。

開いたくちびるに口付ける。赤い魂を口の中で転がしてのみこむ。

ああ、苦い。

今日も夜凪は漂う。己の死を求めて。


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