瞬殺

勇者 3 | ナノ
暴れていたのは悪魔を名乗るオークで、確かにこの辺りならば悪魔でも通じるだろうといった力を所有していた。

チャキ、と聖剣を握り直し勇者は走った。

「覚悟!」

そのオークが振り向いた時には勇者の手によってオークは横薙ぎに払われ空に飛んだ。

「があ゛ぁあァッ!!!?!?」

絶叫するオークを追いかけるように勇者は跳躍し、オークの腕を両手でつかみ赤黒い魔力の渦巻く方角へと放り投げた。

「はァっ!」

凄まじいスピードで弾丸のように赤黒い魔力の中へと消えていくオーク。それを落下しつつ勇者は見送ると己の属性を使い勢いを消した。

地面に降り立つと勇者はまた怪我人の救助に走った。死者が出なかったことは不幸中の幸いだが致命傷を負っているものは多数いる。
傷の深いものから順に有限な魔力を温水のように使いまくり治療魔法をかける。


勇者の視界がくらくらと回り始めた頃、やっと治療が終わり、息をついた。

あまりに呆気ない悪魔(オーク)の終わりに住民たちは唖然とし、まさかあの悪魔、実は耐久は低かったのではないか、実は勇者と手を組んでいたのではないか、だから殺さなかったのかと思い始める。
勇者はそれを感じ取り、ああ、またかと眠気を堪えて立ち上がる。

魔力を持つ、人ならざるものを殺すと魔力が溢れそこから魔物が出現することは知られていない。聖教会では常識だが伝えていないのだ。
人間では魔物を倒せない、だからいう必要はない、と。それにヘハブリアで信仰されている宗教もまずかった。

罵倒され疑われ迫害される日々。ろくに休息など取れやしない。とれるのは共和国ぐらいだ。勇者の心は荒んでいる、けれどその身に宿す聖気は変わらずにあり続ける。

排他的なこの町は部外者を頑として受け入れず、聖教会など以ての外だ。

ヘハブリアは『アバラック』を信仰する町だ。

アバラックとは簡単に言えば赤い髪に赤い瞳のもの以外は異教徒だから追い出せ、紺色の髪は邪神だから殺せ

というものだ。歴代の勇者に紺色の髪というのはいなかった。一見すれば黒い髪のようだがよく見ると青みがかっており紺色だと分かる。
こつり、勇者の胸甲に石が当たる。

「でていけ邪神!おんをうって、せんのうするつもりなんだろう!」

こつり、こつり。ああ、厄日だ。
勇者は反論も反撃もせず、ただ悲しげに口元を歪めてヘハブリアを去った。
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