都内にある個人経営の小さな居酒屋。貸し切って数年前の桐皇学園バスケ部レギュラーの面々で飲み会が開催されている。もう1時間も経っていないのに、このアルコールの匂いの充満具合に笑うしかなくなってきている。空気に酔うってどんなだ、本当に。

俺は酒に弱いので飲まずに話に参加していた。のに、酒を飲み、顔を真っ赤にした諏佐先輩が飲め飲めと水が入っていたコップに焼酎を注いできた。水だったものが瞬時に水割りへと姿を変える。いや、水の割合が少ないので水の焼酎割りだ。恐ろしい。ロックですらもっと焼酎の割合が低くなってから飲むわ!
飲まない意思を示すために、焼酎割りのコップをテーブルに置いて店員に烏龍茶を注文する。そんな俺を見て諏佐先輩は口を尖らせた。先輩、アンタもう成人して何年経ってると思ってンスか…。


「そんな顔して見てきたって、飲みませんよ。と、言うよりは飲めません。俺が飲んだら一体誰があんたら送って行くンスか」


この店から一番遠いのは俺でハンドルキーパーをかって出ていたわけなのだ。帰る道すがら一人ずつおろしていく形で。それに、このご時勢飲酒運転などご法度だ。昔は軽かったけれど、今は一体どれだけの刑罰が待ってると思っているんだ。俺はまだ捕まりたくない、人生まだまだこれからだ。楽しみたいことだってたくさんあるんだ。


「この店の上、確か誰かの下宿先だろ?大丈夫大丈夫、飲めって」


そういうと、諏佐先輩は俺の言うことを一切無視して、無理矢理俺の口に焼酎割りを流し込んできた。焼酎割りかっら!周りも酔っ払いばかりで、やれやれー!などと煽っているのがよく聞こえる。おい、全員飲んだら全員この店の2階の下宿部屋に押し込まれ雑魚寝じゃないか!狭くて死ぬ!幾度となく襲いかかる喉を焼くその感覚に耐え切れずに咽ると、目の前が真っ黒に染まった。その黒い世界の中で、弱すぎだろーと笑う声が響いていた。


目を覚ますと狭い1ルーム(しかも、畳だ)の布団の上だった。俺、ベッドじゃないと普段寝れないのに。体を起こすと頭痛で吐き気に襲われる。あ、頭いてぇ…割れる……。割れそうな頭を抱えていると「水飲め」と水の入ったグラスを渡された。ありがたく一気飲みをする。枯れた体が潤った気がした。気がするだけでまだまだ枯れているのだろうが。


「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです。こうなるから飲みたくなかったンスよ」
「悪かった悪かった」


グラスを受け取りながら笑って謝罪の言葉を口にするのは、昨晩俺に酒を飲ませた諏佐先輩だ。何故普通なんだ、俺が意識消してからもきっと飲んでいたはずなのに。


「なんで、諏佐先輩も酒弱いのに普通なンスか…」
「俺、すぐ酔うけどすぐさめるんだ。酔ってる時間の記憶はないけど、次の日全く残らないから助かってるよ」
「不公平だ!!……っ、いてぇ…」


重い頭を庇いながらもう一度布団に横になる。薬は出来るだけ飲みたくない派だからこのまま痛みを我慢するしかないのか…。もう1杯水を持ってきた諏佐先輩を見て、こういう時はいつも以上に優しいんだよなと思う。飲ませた罪悪感からか何か知らないが。
水を飲みたいけれど、また体を起こすのが億劫で再び夢の世界へ誘われることにした。

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