秋も終わる




携帯を取り出してポチポチとメールを打つ。宛先は居候させてもらっている家の家主。家主である桓タイさんはいつの時代の人間だと思いたくなるレベルだった。俺が連絡を取れないと困るとごねて強請るまで携帯を持とうなんて考えなかった人物である。このご時勢の強敵になるだろう。
メールの内容は、委員会で遅くなるので先にご飯食べててください。多分家につく時間はそこまで変わらないのだろうけど心配させるといけないので。一度携帯の電池切れに家電のコンセントが抜けていたことも重なって連絡が取れなかったときに、警察に捜索願を出そうとした前科があるためだ。このこともあって携帯を持たせることに成功した。心配するならまっさきに携帯の選択肢を選んでほしかった。
これですぐに連絡を取れるようになったが、桓タイさんの携帯に俺の知らない人物の電話番号やアドレスが増えていくのは気に入らない。俺だけのものではないのに。ここまで心が狭かっただろうか。心の中で軽く首をひねる。


「委員会始めるぞ、携帯諸々しまえ」
「はーい」

委員長の掛け声に携帯や不要な物をしまって委員会が始まった。桓タイさんはちゃんとメールを読んでくれるだろうか。何度も教えたから返信はなくも読んでいてくれていると願う。

2時間後、委員会が終わってぐったりと机に突っ伏した。なんだろう、この無駄な体力の消費は。おかしいだろう。この暇だと思っていた委員会が思っていた以上に忙しいときたものだ。色んな許可の取得に振り分け、プログラム構成。机や椅子の移動。いや、だいたい暇なのだ。1点集中で忙しい。文化祭準備委員なんてなるものじゃないな、来年はやめておこうと決意した。


使っていたものを直して、ふと窓を見ると外は暗かった。秋だけどやはり日が落ちるのが早くなった。マフラーもそろそろ買わなければならなくなってきている。今度の休みに買いに行こう。何色でどんな柄にしようか。自分の好きな色と似合う色が一致しないので面倒だ。
終わったので今から帰るとメールを入れようと再び携帯を取り出すと、不在着信が数件。全て桓タイさん。おい、メール返信してこいよ、と思わず。きっとメール返信するのめんどくさくなってかけてきたというところか。機械音痴もほどほどにしてください。小さくため息をついて荷物をまとめて教室を出た。メールを打つの忘れたけど、もういいや。


正門を視界に入れると自然に入ってきた人影。よくある女子の迎えだとか出待ちだとかそんなものだろう。俺には関係ない。迎えに来るような人物もいない。待っててくれといった人物もいない。家で桓タイさんがご飯でも作っててくれているだろうか。いや、家事全般苦手な人だ。もしかしたら、俺が帰るまで待ってるかもしれない。急に吹いた風に身震いをすれば、声をかけられる。


「寒そうだな」
「へ?」
声の主は今考えてた桓タイさん。家に居るんじゃないのか。スーツ姿のままだ。カバンは持ってないから一旦家には帰ったか。
「どうしたんですか、桓タイさん。もしや、メール読んでませんね?」
「読んだんだがな。電話繋がらないし、遅いから迎えにきた」

そう言うと桓タイさんは俺の首にマフラーをかけた。ん?と思う間もなくそのままくくられる。温かい。よく見ると、今まで見たことのない色と柄のマフラー。買ってきたのだろうか。

「これ、どうしたんですか?」
「埃っぽいか?すまん。一昨年まで使ってしまいこんでたやつを引っ張り出してきたから」

要するに、これは桓タイさんが使ってたやつ、か。お下がり…?なんだか、ちょっと暖かくなる。確か、去年冬が来る前にマフラーをプレゼントしてから俺があげたやつを使ってくれている。から、か。

「……まだ秋なんですけど、マフラー早くないですか?」
「そうか?」

あっけらかんと答える桓タイさん。なんだ、この可愛い感じのおっさんは。おっさんは本人に言うと怒られるけど。さっきまで全然思わなかったのに桓タイさんと話したらお腹が減ってきた気がする。時間も時間であるのも重なっている。

「桓タイさん、お腹すいたので早く帰りましょう」
「そうだな。でも、なんの用意もしてきてないから何か食べにいくか」
「財布持ってきてるですか?手ぶらそうですけど」
「ちゃんと財布くらい持ってきてるさ」

と、笑う桓タイさんの隣をマフラーに顔をうずめながら歩いた。…このマフラーもらえるのかな。


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