テレビから適当に面白くもない番組の音声が流れる。本を読むのに邪魔になり始めたから消した。ブツン…と独特の音がして部屋に静寂が広がる。窓から鳥の鳴き声に車のエンジン音、子供達の笑い声が届く。休日でもないが、この時間帯は活動が活発で明るい。家に引きこもっている私たちとは別だ。出掛けたい場所も目的もないので家で互いに本を読んでいるのだが。
それでも、なんとなく、言っておかねばならないと、思ったこと。報告する義務も意味もないが。

「バイト辞めた」と言ったら彼は「…そうけ」とだけ言った。視線も行動も変えずに呟いただけだった。やめたというのもただの報告であって、何かそれ以上の反応を求めていたわけではないので構わない。が、如何せん淡白というか興味なさすぎである。それも彼の良いところであるのだが。ドライすぎる…。

「こっちば来い」

小さくため息をついて、視線を雑誌から動かすこともせずに小さく左手で手招きした彼のもとに行く。
同じ空間に居るけれど、同じことをすることは少なかった。よくある、そばにいるだけで満足というものである。 抱き込められることもなければ、手を繋ぐこともなければ、キスなんてすることもない。本当に同じ部屋にいるだけである。互いに雑誌や本を読んだり、ゲームをしたり、最悪の場合片方が寝たり電話してたりもする。
彼の傍に行けば、ぱんぱんと彼は自分の隣を叩いた。此処に座れということだろうか。大人しく座ると、方向が違うと怒った。何なんだ。隣を叩いたから隣に座ったのに方向が違うって何だ。言われるがままに彼に背中を向けて座ると、ずしりと重みが加わった。

「…何、凭れかかって来てるの」
「細かいことは気にせんで良か」
「どっちかっていうと私が言うセリフだよね、それ」
「……せからしか」

逆ギレではないのか。そして、きっと彼は何を言ってもどかないのだろう。実際、ちょっと重いって言ってみても我慢せろと言ってのけるレベルだ。ただ何をするわけでもない。ただ背中を合わせて座っているだけだ。時計の針がちくたくカチコチと鳴り、時々彼がページを捲る音が響く。そして、また窓からたくさんの音が響いてくる。そんな部屋で、背中から伝わる重さと暖かさに泣きそうになった。




(こんな時間が増えるというなら辞めて良かったのかもしれない。)






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