冷蔵庫を開けると水以外の飲食できそうなものが入ってなかった。時計で時間を確認すると日付が変わっていた。スーパーはとっくに閉まっている時間だ。仕方なく部屋着の上からコートを引っ掛け、財布片手に家を出た。行き先は徒歩5分程度のコンビニ。

どうせ近所のコンビニだと気を抜いたのがいけなかった。思っていた以上に寒い。マフラーを咄嗟に掴んで正解だった、と首を埋める。大した差ではないが、少しだけマシな気がした。暗い道の頼りない外灯に蟲が集まってるのを横目に通り過ぎる。冬なのに。はぁ、と吐いた息は白くなってすぐに消えた。

「らっしゃいませー」

コンビニに入ると暖かい空気が身体を纏う。やる気のない店員の声をいつもどおりに聞き流し、籠を持ってアルコールの前へ。ビールにするか、酎ハイか、焼酎も日本酒もリキュールもハイボールもそのまま売っている。コンビニは思いのほかラインナップが充実しているものだ。ワインすら置いている時もあった。今は無いようだが…。今はワインの気分でもあったがないのなら仕方ない、と適当にガコガコと籠に突っ込んていく。飲みたいだけで、どれが良いというものはもうない。つまみも適当にそれっぽいものを突っ込む。腹が膨らまないもので良い。その分アルコールが飲める。


「イケメンが財布だけ持ってコンビニって…しかも、買ってるのが酒とつまみだけって」
「……イケメンの前にタダの人間ですから」


突然に籠に負荷を掛けて声をかけてきたのはカリヤだ。同じ会社で部署違い。突出して仲が良いということもないが、悪いわけでもなく。誰かと飲みに行ったことは数回程度あったか。しかし、家はこのあたりだっただろうか。密集してコンビニがある中で此処ということは近所なのだろうか。自分のところまでも徒歩圏内か。家の方面はこちらの方だと会話した記憶もない。…あまり今は関係ないか。


「…で、イケメンは否定しないのかよ」
「事実ですから」
「はいはい、どーせ俺はフツメンって奴だよ」


あ、今絶対にヤな奴って思った表情ですね。眉間に少しシワが寄ったのがわかる。カリヤの周りには、前と変わらず美丈夫な人間が多い。多少自虐的になってしまうようなこともわかる。今のは自虐的なのかわからないが。昔みたいに自信有り気にすればいいのに。


「そう言うカリヤはどうしてコンビニへ?」
「酒が足りなくなったから買い足しに」
「誰かと一緒で?」
「……一人寂しくだよ」
「では、ご一緒にどうですか?」


籠から一本掴んで顔の横で酒を軽く振ってみせる。一人同士、愚痴でも惚気でも何でも零しながら。と誘うとランス持ちならとカリヤは笑った。よく笑うようになった。少しだけ酒とつまみを追加して手早く会計を済ませ、コンビニを出ると寒暖の差に思わず身震いをする。店内では緩めていたマフラーを締め直して、逆方向に行こうとするカリヤの手を引く。


「サクラ、でしたっけ?」
「ん?」
「姪っ子さんです」
「ん、そうそう。すっげー可愛いの!」


姪っ子の話題を振ると、雁夜は大きくアクション付きで可愛さを熱弁し始めた。来る時には外灯に群がっていた蟲はもういなかった。何処へ行ったのか。しかし。こんなふうに、普通に他愛もない話題の会話をして、周囲に気を張らないで歩いて、どす黒い感情も捨てて。あの時の願い事がまるで叶ったかのようですよ…、カリヤ。


自分の膝の間に雁夜が座って1枚の毛布に一緒に包まって。寒空の下で空を見上げて。吐く息は今と変わらず白くて。空を駆ける石塊に願いをかけた。
『生まれ変わったら、こんな“魔術師”なんてのもいなくて“聖杯戦争”なんてものも無い時代の一般家庭に生まれて、平凡な普通の人生歩めるといいなー。…………また、お前と一緒に』
そう言う雁夜の耳は寒さからか何からか赤かったのをよく覚えてる。また一緒に居ることを願われてることに泣きそうになったのもよく覚えている。


あの時よりも楽しそうに、自分の隣で笑って姪っ子の話をするカリヤにまた泣きそうになった。


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