利央が風邪を引いたらしい。同じクラスじゃないし、メールや電話をする仲でもない。知り合いの知り合いというのが尤もらしい関係に当たるのだ。知り合いというか友人というか先輩の後輩というのか。とりあえず、友達やクラスメイトではなく、ただの同輩、知り合い、顔見知りといった程度である。しかし、なんとかは風邪を引かないというのは嘘だったらしい。何をしでかしたのかは知らないが、それなりの高熱を出して咳で苦しんでいるそうだ。風邪を引いたというのも、この熱咳の情報も今私の隣に居る人物によって与えられた情報である。まぁ、この人物が共通の知り合いであり先輩である。


「…いつまで笑ってるんですか、準さん先輩」
「ひぃひぃ、悪い悪い」


目じりに溜まった涙をふき取る行動とは裏腹に、その表情からは全く謝罪らしき意図は見受けられない。何がそんなに面白かったんだ。よくある聞き間違いで言い間違いのようなものなのに。利央の話によると笑い上戸らしいが。笑い上戸ってお酒飲んだ時の表現じゃなかったっけ。細かいところはいいか。部活中でもよく何かよく笑うらしい。確定的な情報が無い。部活見学や試合を見に行ったりなどは全くしない。人伝であり噂であり、全部“らしい”だ。こんな聞いただけの情報だらけで良いのかな。なんて思ったりもするけど、変な嘘をつくとも考えにくい。噂は噂だけれど。聞いてるとしんごさんは平気で騙してくるから気をつけろ、だった。あえてそのしんごさんの嘘を聞いてみたい気もする。一体どんな嘘をついて驚かせてくれるのか。


「ただの誤変換はそこまで面白いものですか?」
「面白いだろ、普通そんなんならねぇって」
「“リオで蛇音色”」


件の誤変換をもう一度言ってみると、またツボに入ったのか笑い出した。あぁ、準さん先輩って笑いの沸点低すぎると思いますよ。これくらいで…。笑いの沸点が低いというのか、ツボが他人と違う位置にあるというのか。住宅街の中をケラケラと笑いながら歩いている先輩の状態も赤の他人から見ればおかしいと思いますよ、なんて思っても口には出さない。言ったら言ったで何か変なことになりそうだし。


「…で、次どっち?」
「へ?」


どっち?と聞かれて1,2メートル先を行ってた先輩は十字路にぶち当たっていた。これは利央の家には“どっち”の道、むしろ“どの”道なのか、という簡単な問いかけだろうか。そうじゃないと続かない気もする。何故かお見舞いを命じられた準さん先輩に引き連れられてやって来たものの、二人とも家を知らないという問題が起こっていた。何故私がお見舞いなんか…とごちりつつも準さん先輩一緒だし。なんて軽い理由で付いてきたけれど。軽く迷子なのである。

適当に歩いてから先輩が野球部の先輩たちにメールで地図を送ってもらってたので、それを頼りに歩いているわけだけれど。如何せんこの地図が見づらい!細かいというか適当というか大雑把というか適当というか情報が無さ過ぎるというか、もう適当としか言いようが無い。適当は適切とは別の意味の適当である。適当良くない!

その適当な地図を表示している先輩の携帯を片手に正しいであろう道を進んでいる。先輩の携帯なのだから先輩が持って歩くべきじゃないのかなと思いつつも「俺、地図読めないからよろしく」と携帯を渡してきたのだ。私は方向音痴で地図片手に出かけるので地図は読める。適材適所らしい。あぁ、またらしいだ。

送られてきた地図と自分たちの進んできた道と電柱に書かれているここは何処何処の何です、という表記を照らし合わせる。こっちにいってあぁ行ってこの辺か。などと一人理解して「そこは左に右折です」と答えた。

3秒ほど理解できなかった、わけがわからないという顔をして少し上を向きながら考えたかと思うと「…よし、わかった」と何か一人納得したのか十字路をまっすぐ進んでいった。いやいや、そこ左ですって。左に行って少し進んでから右ですって。まっすぐ行ったら遠回りなんですって。と心の中で制止をしつつ先輩の後を追った。まぁ、遠回りすればその分先輩と居られるわけだし。遅くなったら利央の親御さんに迷惑かな、と思いつつも自分のちょっとした欲望を優先させた。




「お見舞い道中」





(利央ん家わかりにくいよ、)(えー、そこまでわかりにくくないよ)(迷ったものは迷ったの!地図片手だよ)(準サン一緒だったのに?)(うん)(おかしいって、それ)(何が)(利央!)(準サン俺ん家何度も来てんもん)(…どういうことですかね、準さん先輩?)(余計な事言うな!)





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