お気に入りのブーツを履いて、可愛いスカートを穿いて廊下も玄関も一気に駆け抜ける。外に出れば、これ以上ないってくらいの快晴。言葉通り真上には雲一つない青空が広がっている。あったかいなぁーって思いながら踵を鳴らして走っていく。ひらひらと桃色の欠片が舞ってきた。待ち合わせ場所までもう少し!ってところで、頭をパシンと叩かれる。


「……痛いんだけど」
「遅刻ばしかけよるきさんが悪い」
「しかけてただけで、してないもん」
「あと15秒やったけん、間に合うてなか」
「細か…っ!」


叩かれた場所を摩りながら振り返ると、待ち合わせてた功刀がいた。帽子を被り直してたので帽子で叩いたのだとわかる。優しさととって良いのか悪いのか。鍔でだったら痛さ倍増だからね…。どちらにしろダメージを被ることには変わりないので優しさなんて言葉を使っては行けないことにした。

「さて、何処行く?」
「なして決めとらんとね」
「忘れてたんだよ」
「阿呆め」

いつもの口喧嘩らしく阿呆阿呆言うので、いつもの如く阿呆って言うやつが阿呆なんだよ!と言い返したい気持ちを押さえつける。折角の休日に喧嘩してどうするんだ。いや、休日関係ないくらいだけど。とりあえず、と公園に向かうために方向を変える。「クレープ食べよう!」その一言に、はいはい。と答えて功刀はついてきてくれた。今から向かうのは大きな公園だったから、確か移動式のクレープ屋さんが来てるはず。いつもどおりなら。休みの日だし、来てるとは思ってる。お店の人が気分で場所を変えるらしいので確証も何もないけれど。

近状報告もないけれど、昨日何してた?とか他愛もない会話をしながら公園までくると、視界を染める薄紅に目が奪われる。すごい…。声に出してたようで、どしたね。と功刀が聞いてくる。振り返りながらもソレを指差す。だって、


「早いね、もう桜が咲いてるよ!」


と、私が言うと彼は何言ってんだこいつ、と言わんばかりの表情を見せた。何が悪いんだ。良いなぁ、と桜を見上げてヒラヒラと花片が降ってくる中をくるくると回る。スカートがふわりと舞う。ガキめ、なんて思ってるかもしれない。このやろう、後で覚えておけよ。


「だってさ、まだ4月上旬なのに桜が咲いてるんだよ?満開なんだよ?」
「それがどしたっちゅうねん。普通たい、驚くことなか」
「九州って暖かいんだね、私の居たとこなんてまだまだ先だよ!」


舞い落ちてくる花弁を取ろうと幾度と手を伸ばすけれど、掴めずに空を切る。風も吹いてないのに途切れることなく落ちてくるけれど、一枚として手中に収めることが出来ない。く、悔しい…そりゃ運動神経は自他共に認める程度には悪いけれど…。そ、それでも…こう、一枚くらいは…。高望みだけれど。


「……何しとるね」
「知らない?花弁が地面に付く前に3枚取れれば、願いが叶うんだよ」


ちなみに、私は3枚集めれた人を知らない。ぴょんぴょん跳ね奮闘してる私を横目に、ひらひらと不規則に舞う花片を被っていた帽子で難なく功刀は3枚集めてしまった。餓鬼の言うこと信じたのかよ、って心の中で悪態をつきつつもすごーい!と私が感心すると功刀は


「これで、きさんを俺ん隣にずっと居らせれるんな」と笑った。


そんなこと桜なんかに願わなくても、一言言ってくれたら簡単に叶うのになぁ、と彼に微笑みかけた。「せからしかね」少し照れくさそうに帽子の中の薄紅3枚を取り出して、私の掌に乗せると功刀は帽子を被り直す。そんな簡単に叶えれることを願ってしまうくらいなのだと考え直すと、とてつもなく嬉しくて、甚三紅の祝福を浴びながら功刀の腕を引っ張ってクレープ屋へと急いだ。












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