望んでいるのは何だ?叶えられるようなことか?叶えられずとも、その過程に、何が見えるのか。 「もし、私が今ここで犯罪を犯して指名手配されるようなことになったら、一緒に海外まで高飛びしてくれる?」 唐突にそう言ったのはこのクラスの委員長――ニックネームまで委員長だったので少し本名を忘れてしまっている、すまん――だった。今日は日直で、早々に部活へと逃走しようとしたところを捕まってしまって日誌を記入している時だ。唐突過ぎたし、呆気にとられて即座に反応できなかった。少し物騒なことを言う委員長の顔は何故かちょっと笑顔だった。 「…急に何言ってんだ?」 「んー、なんか聞きたくなった」 そう言って委員長は頬杖を付いて窓の外を眺めた。俺から見て委員長は大人しいやつだ。委員長のレッテルで優等生のイメージが強いだけかもしれない。が、こんな、『犯罪』とか『指名手配』とか限りなく無縁そうな感じ。押さえつけられてるだけで、本当は縁が存在しまくってるのかもしれない。頬杖をつく委員長の表情から笑みは消え無表情になっていた。 「なんかあったのか?」 「…んー、別に」 委員長はそのまま外を眺めたまま応えた。ココから見えるものなんて対したものじゃない。せいぜいグランドくらいだ。ぽつぽつと帰路につく生徒が見えるくらいだろう。あー…なんだ?せんちめんたる?とかそういうものか。 ……学校で今出来る犯罪って何だ?器物破損?誹謗中傷?殺人?殺人でなきゃ指名手配はされないか…?そうなると今すぐ殺される可能性があるのは俺だが、“一緒に高飛び”と、なると俺は生存していなければならないわけか。んで、たった一人殺したくらいで指名手配はない、か…。この時間に部活や補習なんかで残ってる先生生徒を全員殺したらなるかもしれない。何人残ってるかは知らないが。 「なんでオレに聞いた?」 「んー、なんとなく。泉クンなら欲しい言葉くれるかなって」 「どんな返答を望んでたんだ?」 「あははー、質問攻めだね」 「委員長が急に変なこと聞くからだろ」 困ったように笑って委員長はやっと俺の方を向いた。頬杖は依然ついたままだったけれど。表情は少し明るくなったように思える。でも、何故か切なくなった。理由なんてわかるはずもない。同じクラスであるだけの人間の心理なんて手に取るように分かってたまるか。互いにつるむグループも全くの別物であるために共通点もあまり見受けられない。 「そんなに見ないで欲しい、かな」 「へ?、あ、悪い」 俺はずっと委員長を見てたらしい。見てた、と言うよりは睨んでた、かもしれない。気付かなかった。言われてから視線を手元へと移す。視界に入ったのは先ほどから書かれずにいた日誌。白い。書かなくては。俺はずっと握られていたシャーペンを滑らせるが、書くことがなくてすぐに止まってしまう。選択授業の内容に日直の一言感想。感想なんてめんどくせーくらいしかない。野球してぇなー…なんて書いたら怒られるだろうか。 「さっきのだけどね」 「あ?」 顔を上げると委員長はまた窓の外を見ていた。どこか、違う世界の違う場所を求めているようだった。本当に求めているかなんて定かではないけれど。憶測で物を言うと、本当にそうであるかのように見えてくる。 「人間ってね。どれほど愛されることが出来て、どれだけ愛することが出来るのかなって、そう思ったんだよ。」 そう言って窓から差し込む夕日に照らされた委員長はとても儚く今すぐにでも壊れてしまいそうなくらい、綺麗だった。まるで漫画みたいで、いよいよ頭がブッ壊れたかと思った。差し出しそうになった手に力を入れると、視界の下でぽきっとシャーペンの芯が折れる音がした。 「……委員長」 「何、泉クン」 「委員長となら、何処まででも行ってやるよ。例え、その先が地獄に続いていようとも。望むところまで。」 俺の言葉に委員長は少し目を見開いてから、ありがとう、と笑った。 『一緒に世界の果てまで』 |