何か話してください。




LHRが終わって、部活に所属しているクラスメイト達は続々と部活に足を運んでいく。入っていない人は自習の為に図書室へ向かったり、残ることはせずに帰ったり。私は何処にも入っていないけれど、そのまま教室に残った。何をするということも無い。ただ教室に残ってぼーっとするだけ。宿題課題をしたらいいのかもしれないけど、集中力がないから無理だ。今日はもう帰ろうか。まだ20分も経っていないけれど。

荷物を片してドアを開けて目の前に広がるのは廊下ではなく黒と水色。ちゃんとピントを合わせると男子の制服であるのがわかった。至近距離だな。と冷静に分析するあたり私は涸れている気がする。また、冷静に誰なのだろうと思って顔を上げてみると、隣のクラスの水戸部君だった。不思議そうに私を見下ろしている。……あれ。


「何かあった?」
「…………」


私が聞いてから数秒の後に彼は無言で首を横に振った。声を出さない。身振り手振りをするわけでもない。ただ首を横に振っただけ。クラスメイトから聞いてはいたが、本当に声を出さないのか。声帯が何かの事情でやられたのか、声を出すのがめんどくさいのか、会話したくない意思表示なのか。後者二つだとしたら、意外と人が悪いな。それでも、彼の言いたいことを分かる人が居るということは読み取る何かがあるのだろう。


「……隣のクラスなのに、どうしてこの教室に?」
「…………」
「…………」
「…………」


彼は何も言わずに、ただ私を見ている。何をすることも無く。ただ、じーっと。普通言い訳で身振り手振りで慌てたりなんかするものだと思うのに。沈黙が心なしか気持ち悪かった。彼が何も言わないのであれば、私がこれを切り裂かないといけないのだ。苦しいのにもほどがある。


「……多分ね、水戸部君が思うようなことはないよ」
「…………」


彼はほんの少しだけ口角を上げた。これだけでなんとなくどんなことを考えて居るのかわかってしまうのは、どうしてだろうか。何故、なんて考えてると彼は無言で私の頭をぽんぽんと撫でた。意味が分からないまま彼を見つめると、先ほどとは違う笑顔を返してきた。また何考えてんだろ、こんな笑顔で。物悲しくなるような表情に胸を締め付けられながら、「また…明日、ね」と告げれば、作られた顔で手を振った。

彼の横を通りぬけて人気も少なくなった廊下で思う。
喋らないらしい、バスケ部らしい。それ以外は何も知らないのに。
友達でもクラスメイトでも同級生と言うほかには関係を表す言葉なんて無いのに。何かしてあげれないかと思った私は何なのだろう、と。






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