さしている傘の中から見上げた空には灰色の雲が広がり青は一切と見えない。雲によって覆い尽くされてしまった黒い空は少しだけ気分を落とさせて、静かに雨を降らす。ただただしとしとと降る。雨粒は傘に当たって音を立てた。その音が不思議と楽しいと言ってるように聞こえてちょっと沈んでいた気分も戻った気がした。
なぁんて、あるわけもなく。唇を尖らせて歩いている。さしている傘は気分だけでも明るくあげようと赤色。ちょっと暗いとこでもよく見えるように赤。目立つ赤。章吉の、赤。


くっそ、雨だからチャリに乗れな…いことはないけれど、雨合羽を着るのがめんどくさくてバスで登校してしまったために下校もバスで徒歩。めんどくさい。歩くのも、バスに乗るのも、雨合羽来てチャリに乗るのも。そのままチャリに乗るのが一番めんどくさくないかのように思うけれど、違う。帰ったあとがこれはこれでめんどくさい。そして、色々と天秤にかけた結果は徒歩である。と、いうのもバスに乗り遅れた。最終のやつ。おかしい。なんでこんな最終早いねん。せめて最終下校の15分後くらいまであれよ。おかしいやん、帰られへんやん。どういうことやねん。
ぼたぼたばちばちさーさーざーざー。雨は落ちて不規則なメロディを奏でる。それが如何にも何かを伝えてくるように思えるくらいには漫画脳なのが私だ。



「なぁ、章ちゃん」
「なんや?」
「雨に感情ってあるんかな?」
「あ?んなもんあったらうるさぁてたまらんわ」
「確かに。そうだね、今の時点で既にめっちゃうるさくてあんま聞こえとらんしな」



この瞬間も絶えず音を鳴らす雨。ただの自然現象だとしても、誰かに、何かに出会うためなら、と空高くかた落ちてくるんだ。なんて、思うのもまた漫画脳で平和ボケしている。本当にただの水なのに。H2Oだ。水素と酸素の組み合わせ。前までこんなことも何も考えたことなんてなかったのに。誰の何に感化されたのか。この世界の何に、が正しいかもしれない。
足元に転がっていた石ころを蹴飛ばす。まっすぐ飛んだかと思えばはねて路肩の排水口に吸い込まれていった。くっそ…。


「ホンマ、雨降ったら何もでけんしな。チャリ乗りたいわ」



隣でまるで女の子が使うような、自分と同じ赤色の傘をさして不満気に口を尖らせる章吉を見る視界の端でキラリと何かが輝いた。「今の…まさか…」と小さくこぼすと周りの空間を雷鳴が一瞬で駆け抜ける。轟音。ビリビリとカラダがしびれてぶるぶるぞわぞわ足元から上に鳥肌もたって。


「雷や!」
「久々きた!!」


章吉と自分は雷で停電や感電なんてものを怖がらずにテンションを上げるタイプの人間である。だから、この久しぶりの雷に阿呆みたいにはしゃいだ。足元も見ずにはしゃいではしゃいで水溜りに二人して両足つっこんで。傘も雨除けの仕事を果たさせなかったくらいに髪も服も靴も何もかもべとべとのびしゃびしゃびになって帰った。夏で、よかった。


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