一人ぼっちのクリスマス


はぁ、と両手に吹きかける。手に当たった息は眼鏡も曇らせた。少しだけ冷たい手が暖かくなったような気がしないでもないが、すぐに冷えてもとの温度へと戻った。なんて世界は非情なんだろうか。それが自然なのだけれど。
これだから冬は嫌いなのだ。こたつや毛布もお鍋やみかんも冬ならではというか、冬が一番楽しめるけど。寒さには敗ける。だが、食べ物が美味しいことに関しては感謝してやろう。と、季節、自然に対して上から目線を差し向けた。

手袋をつけた両手をこすりながら、目の前でキラキラと光るイルミネーションを眺めた。その前を腕を組んでカップルが歩いていく。笑いながら。羨ましくなんて、ない。ずずっと洟をすする。
クリスマスの時期になると、この駅前の一番大きな木は飾り付けられる。既に11月下旬、ほぼ七五三が終わったと同時に準備は始められるけど。余韻もあったもんじゃない。折角親戚の姪っ子ちゃんの七五三の写真をもらって可愛い可愛いとつい先日まで思っていたところで、じんぐるべるだ。くっそ、民意はあくまでも先行か。

携帯を開いて時間を確認する。当初予定していた待ち合わせの時間を過ぎていた。いいや、待ち合わせなんてしてない。だから、来ないってわかってるはずなのに。なんで、どうして、私は待ってるんだろう。万に一つの可能性だってないのだ。何故って…今日は、ウィンターカップだ。試合中だ。いや、もう日も落ちたから終わっているかもしれない。


「結局、私は一回もまともに試合を見に行かなかったな…」


ぼそりと呟いた。特別バスケが好きなわけでもなかったし、試合のルールなんて理解しきれていない。授業で説明されたとこだけはわかる。1ゴール2点で、2回ドリブルしちゃいけないとか、ボール持って3歩歩いちゃいけないとか。そんな程度。
だからなのか、日向くんがバスケ部のキャプテンで試合をしてるとこを見に行こうだとか思うことはなかった。ルールをわかってないのに、試合見に行ったって何も面白くもない。ルールブックで勉強すればよかったのかもしれないけど、勉強が嫌いな私はそんなことするはずもなかった。「メガネ族が全員勉強できると思うなよ!」と日向くんも同じことを言っていた気がする。


「…はぁ、こんなとこにいやがった」
うつむき気味で足元しか見えてなかった視界を上げれば、目の前に肩で息をする日向くんの姿があった。ジャージだ。マフラー巻いてるけど。一回帰ったのかな?コート来てこればいいのに。
「試合、勝った?」
「勝ったに決まってんだろ、ダアホ」
「いた…っ」
ぺちんと頭を小突かれる。手はなんか、冷たくて暖かかった。
「じゃあ、明日もあることだし、帰ろっか」
「…おう」


なぁんて。ことがあれば夢みたいで泣けたのに。起こるわけがない。別に付き合ってるわけでもないし、家族ぐるみでの交流があるわけでもない。一介のただのクラスメイトにこんなことするわけない。相田さんでギリギリあるかどうか、じゃない?
配られていた出会い系の広告の入ったポケットティッシュで可愛げもなく洟をかみ、イルミネーションの中を一人で歩いて帰った。





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