カラン、と氷がグラスの中で音を立てて形を変える。鼓膜を震わせるのは緩やかな流れのピアノの音。なんという曲だったのか、クラシックに詳しいわけじゃないからわからないけど。誰の曲なんだろう、聞いたことあるような気がするから有名なんだろうな。あとで調べてみようかな?でも、調べるための情報少なすぎるからやめとこう。目の前に置かれたグラスに入った透明の液体を一口飲んだ。舌がピリリと、喉も焼けるような刺激をうける。これが美味しいのだ。辛口で。
そして、こんな感じのバーで異様な雰囲気を醸し出しているのは、私のグラスの斜向かいに置かれているスルメだ。このスルメはなんとなく哀愁を漂わせている。気がする。何故スルメ哀愁漂っていると思うのかというと、こんなオシャレなバーに駆り出されているからだ。普通このような場所に出てくることがおかしいハズの存在だから。原因を作ったのは私だけどね!!
何飲みますか?と聞かれて、冗談で泡盛なんて言うんじゃなかった…。私が泡盛なんて頼んだのでそれに合う肴を選んで出してくれただけだけど。スルメ。なんでカウンターの前でカシャカシャ振ったりグラス拭いてるマスターがいるような店に泡盛あるの?そこも間違ってるよ?お客のニーズに合わせたと言ったとしてもおかしいよ?そして、過去に同じように泡盛とスルメを頼んだお客さんが何人もいたわけだね?どうなってるの!?


「悶々と何考えてるの?」
「目の前の泡盛とスルメのこと」
「何それ、俺と一緒にいながら!」
「うぬぼれね」
「がーん!」


和成がショックを受けてないけれど、受けるように漫画の効果音を口に出した。このやり取りを見てカウンターの向こうで今日の担当さんが笑う。笑われたことに対してこっちがガーン!だ!!今日の担当さん、今目の前でグラス拭いてるのは実はバイト代理さんらしい。でも、高尾の友人の友人の先輩だって。席に着くときに教えてくれた。けど、微妙に遠い間柄だね…すさっさん…?正式名称で紹介しよーね?今日休んでるバイトさんはどんな人なのか聞いてみたら妖怪って言われたんだけど…そうなるとすさっさんさんも妖怪なの?どこまでが妖怪で繋がってるの?高尾も妖怪さんだったりするの?なにそれ、知らず知らずのうちに妖怪が紛れてるの?え、ここはきたろーの世界だったりするの?夜出歩けないじゃん!


「また思考の迷路に迷い込んでる」
「は、え?」
「ほらー」


気づくと目の前で和成の右手が上下していた。よくある意識の確認の仕方だね、うん、まさかされる側に回ろうとは。と、思ったけど、高校の時から結構回ってたね。おかしいや。もっと考えることあったはずなのに、目の前の泡盛とスルメに持って行かれてしまった…不覚。珍しいわけじゃないのに。この場にあることは珍しいといえばそうなのだけど。考えなきゃ。


「んで、どうする?かくし芸。っつーか、出し物」
「どうしようか」
「文化祭じゃねぇから模擬店や展示系はできねぇし」
「そうだね」


頬杖をついて少しだけ酒を煽る。そう、なぜ私たちがこんなとこで二人でお酒を飲んでいるのかというと、今度行われる盛大な同窓会の出し物を話し合うためである。なんでも何故か会場は居酒屋とか料亭とかではなく大きなホールの1部屋貸し切ったらしい。まるで結婚式のような会場らしく、出し物も盛大にしようという話だ。
そんなこんなで話し合うために来たけれど、どっちかの部屋やファミレスでもよかったと思う。誰に聞かれてるからわからないからって和成が主張したのです。そうです、この穴場バーなら同級生たちに会わないだろうという考えのもとなのです。まぁ、早速その同級生の先輩にぶち当たっているのですけれど。すさっさんさんは口がかたいということにしておくべきところなのでこれはもう置いておく。


「結婚式場みたいな感じなんでしょ?もういっそのことゴンドラ借りたら?」
「ゴンドラ乗っておりてきて月影の堕天使登場!とか言ったり?」
「ちょ、何それ!いいじゃん!まぁ、降臨の方がウケる気がするけどね」
「ゴンドラよりワイヤーアクションの方が良くね?」
「上にじゃーんぷ!からの飛行!みたいな?」
「逆バンジー!」
「ぶはっ!」


思わず吹き出した私と一緒になって笑う和成をグラスを拭きながら微笑ましそうに見てくるすさっさんさんと。ほかのお客さんから見たら多分なんか楽しそうだとは思うだろうけど、静かに酒飲めよという。
しかし。やばい、想像してみたらすごくおかしい!何がおかしいって…たかが同窓会でこんな大層なこと言い出した私たちの思考だ。実際結婚式でゴンドラなんてバブル時代の過去映像でしか見たことない。今ゴンドラって何円くらいするのだろうか。高そうに思える。今のこの不景気具合だと現実的に考えて金銭的に難しいのじゃないかな?懐に吹雪が舞うレベルよね。寒いとかのレベルじゃないわよね、氷河期よね。死んじゃう。


「なんか寒くなったから暖かくなったら良いのに…」
「暖かくね…何か呪文唱えたらローソクに火点いたりさせる?」
「出し物から一回はなれよ!?考えるの楽しいけど!」


それに、本当このまま話していくとゴンドラから月影の堕天使を降臨させざるを得なくなる!お金いくらかかんの!?その前に、あの会場にゴンドラがあるのかからだよね、うわ、あったら絶対するじゃん、誰が費用出すの?全員で割り勘?え、それって幹事の仕事じゃない?押し付けられるの?思わず頭を抱える。目の前にあるのはもう酒とスルメ。いつの間にか哀愁感は消えて今は私を嘲笑っているかのようだ。

勝手に話は進み、本当にゴンドラを借りたらしく(しかも、思ってた以上に値段はお手軽で)、和成ではなく私がゴンドラに乗って月影の堕天使となり降臨しないといけないらしい。こ、高所、恐怖、症、なの、に…。なんとか、テンションあげてごまかそうと酒っ!飲まずにはいられない!!って状況になってる。あぁ、実際乗った時に、私は…






笑えているかな?





to DAD/'13/10/26/
/title by 風月琴羽
指定単語=スルメ:福沢結羽、哀愁:風月琴羽、月影の堕天使:りーね
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -