ああ、だめだ。イライラする!!


「一体、これ以上どうしろって言うのよ!」

一番近くにあったクッションを彼に投げつけた。ボスン、と痛いのか痛くないのかわからない音を立ててそれは足元へと落ちる。何をするんだと言わんばかりの空気が漂う。漂わない方もおかしいが。これは只の八つ当たりなのだ。自分が一番わかっている。八つ当たり以外の何者でもないのだ。

「…何、怒ってんの?」
「怒ってないわよ」
「それを怒ってるって言うんでしょ」
「怒ってないわよ!何がわかるって言うのよ!頑張っても頑張っても、皆声を揃えて頑張れって!言われなくても頑張ってるわよ!これ以上何をしろって言うの!?何をしたら良い!?頑張れって言うなら教えてよ!」

少し手を伸ばして再びクッションを彼に投げつけた。それは落ちることなく彼の手に掴みとられ私の胸へと返ってきた。今度はボスンではなく、ぽす、であったが。其れを無言で抱きしめて顔を半分埋める。

「頑張ってるのは良く知ってる。無理しなくて良いんじゃない?」
「……無理しな、きゃ。追いつけない、のよ……」

視界がぐにゃりと歪み声も鼻声になっているのが分かる。違う、そうじゃない。無理しても追い付けない。わかってる、全てから私は置いて行かれるのだ。目尻からこぼれ落ち始めた涙が頬を濡らしていく。

「一旦休んで、ね。リセットしてすっきりした気持ちで新たに頑張れば良いでしょ」

そう言って彼は最初に投げたクッションを拾い上げて私の頭の上に置いた。軽くもなく重くもないクッションは私の頭を下げさせる。なんだろう。

「……君も、」
「うん?」
「君も、私を…置いて行くんでしょ?」
「……何それ」
「これ以上前に進めない私を、置いて、先に行ってしまうんでしょ?」

彼は呆れたように溜息をついた。良い、私の事は放っておいて良い。進めなくなってしまった私は彼には重しだ。足枷にだってなってしまう。いやだ。けれど、もう私は進み方を忘れてしまった。どうやって私は前に進んでいたのだろうか。

「…そうだね、先に行ってる。先に行って待ってる。遅くても良い。来るのをずっと待ってる。」
「……待ってる、って。何、言って―――」
「俺の隣に、来るんでしょ?」

有無を言わせない目で彼は私を見た、この、目。嫌いだ。何を射抜いているのか。嫌いだ。

「………行く」
「なら、俺が死ぬまでに来てね」

最後のセリフを吐いた彼の表情は優しかった。あぁ、明日からまた別の頑張り方を見つけなければ。ぎゅうっとクッションを抱きしめる力を強めた。






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