今年はどうしようか。毎年のことなんだが…どうして自分が作ってるんだろうか。作って渡すのは女の子の役目ではないのだろうか。




この時期になるとスーパーやデパートで盛大に特設コーナーが設けられる。ある日に向けてへの。それは、2/14。聖・バレンタイン。どうして、チョコレート業界に踊らされていると気づかないんだ。そう言う自分も、チョコレート関係の菓子を作っているのだが。皮肉なもんだ。作る予定などなかったのに。家のテーブルの袋の中で存在を主張するチョコレートが憎らしい。



「紗茅さーん!」
「うが……っ!耳元で叫ぶなよ、清」
「だってー」



体育館のステージに、腰掛けていた自分の後ろから抱き着いて叫ぶ清。いつも後ろから抱き着いてくるのは慣れた。が、叫ばれるのだけは勘弁してほしい。絶対に左耳から聞こえなくなる気がする。清はいつも左肩から顔を出すから。右目がよく見えない自分への配慮なのかもしれないが、いや、コイツに限ってはそんなこと考えていないだろう。


「で、どうしたんだ?」
「なんとなく勘付いてるくせにー」
「どうせ、バレンタインだろ?お前も自分から欲しいのか」
「え?お前もって?」


あざとく首をかしげた。可愛いとは思わないが。もう高校1年なんだぞ…?よく考えてくれ…。清も自分から貰おうとしているらしい。どうして、ソコまでして欲しいのか。ただのチョコレートだろ?市販の板チョコでも渡せば満足してくれないだろうか。


「お前のほかに今の時点では千歳に神に牧だ。ほかの奴らも、もしかしたら強請ってくるかもな。なんだって自分から…おかしいじゃないか。」
「…さすが紗茅さん、大人気っすもんね」
「いや、だからな…男の自分から貰っても嬉しいもんか?」
「自覚しましょうよ。紗茅さん女の人でしょ?」
「ははは。もっかい、言ってみろ?絞めてやるから」
「ちょ…っ、ま…っ!目が笑ってないっす!」


自分は男だといっているのに全く聞かない。誰も聞いてくれやしない。生物学上は女だし、戸籍上でも女だ。半分諦めてきているが、ココで諦めてしまっては男じゃない!裁判所に提出するまで男だと主張し続けてやるんだ。裁判も勝ち取って戸籍上も男に変えて、性転換手術もちゃんとして、あぁ、いつの日になるのだろうか。

笑顔で絞めると脅せば、慌てて自分から離れて神達の元へと逃げていった。また何時も一緒だな。いつも4人を見ていると、自分がココの人間じゃないと思い知らされる。元からここの人間じゃないんだが。こんな感情に襲われるようになったのは、今年からだ。去年一昨年とこんなこと無かったはずなのに。どうしてだろう。何が変わったというのか。今年、から…。

楽しそうに談笑していたのに何かに気づいたように、牧だけが自分のところにやってきた。一体どうしたというのか。牧だけというのも少し気になるが。いつもなら一緒にやってくるというのに。


「紗茅、どうした?」
「なにがだ牧?どうした?」
「泣いてる」


すっ、と牧の左手が自分の右頬を撫ぜる。ココで初めて自分が涙を流していることに気づいた。なぜか知らないがいつでも涙が出るのは右目だ。左目から涙がこぼれたことはない。右目は視界が滲む事が無いから気づきにくい。撫ぜた指はそのまま右頬を包む。


「これだから、お前を俺の傍にずっと置いておきたくなるんだ」


心配そうに眉間にしわを作った顔で牧が呟いた。これだからの意味がとくわからないが、普通の女が聞いたらおちるんだろうな。と思う。でも、自分はちゃんとした女では無いから。男でもないと否定されるのだが。なんか、君のそんな表情は見たくないなぁ…と思う。きっと、この想いがココでは一塵として叶う事など無いと知っているけれど。


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