高い。高い、場所に居る、君。君に見えてる景色は…自分には見えない。それが、とても悔しくて、悲しくて、どうしていいのかわからなくなる。








「紗茅、何見てるの?」
「お、ジン。いらっしゃい」
「紗茅の家じゃないんだから」
「ははは!」


昼休み、屋上で何をするわけでもなく、ただただ手摺りに凭れてぼーっと空を見ていた。ちゃんと飯は食べた。半分くらいは食わされたという表現でも良いくらいだ。そんな時にやってきたジン。やって来た時には既に自分しか居なかった。隣良い?とジンが聞いたからどーぞ。と言うと有難うといって自分の隣に座った。


「で、紗茅は何見てたの?」
「あぁ、空」
「空?」
「うん。空を見てたんだ」


見上げて掌を空に翳した。流石に歌の通りに透けはしなかった。翳すことで空の広さと、自分の小ささを知る。“むこう”にいるときよりも身長は伸びたにしても、まだ小さい。周りがでかいだけだといえば、そうなのかもしれないが。なんてったって男子バスケ部の面々だ。平均身長からしておかしい。翳した掌を手元に引き戻して見れば、少し赤くなっていた。血でも出てれば良かったのに。


「空は、一分一秒として同じものは無いから見ていて楽しい。ずっとどんな時でも違ってる。」
「そうかな?どこまでも雲が青色の中に浮いてるってのが続いているようにしか見えないけど」
「違うんだよ。昨日より今日は少しパシフィックブルーが入ってるんだよ、これが」
「陽は絵心無いのに、色は分かるんだね」
「…ソレとこれとは関係ねーじゃんか」


ちょっと嫌なことを思い出した。どうせ、自分は絵が苦手ですよ!猫描いたら足4本より多かったけどだな!今はかんけーねーの!少し赤くなっていた掌は、いつのまにか何時もと変わりない色に戻っていた。自分の、小さな、小さな掌。それこそ普通と言えば普通なんだろうけれど。やはり、比較対象が対象である。千歳と比べると1mmくらいは大きいかもしれない。

「自分は、」
「ん?」
「…自分は、ジンが羨ましい」

小さな掌を力いっぱい握った。少し、違和感を感じた。違和感の主は分かっているので気にしなかった。生まれてから今日まで付き合ってきたんだ。この違和感も普通なのだ。


「紗茅に羨ましがられるようなこと、俺には何も無いけど?」
「あるよ。たくさん。数え切れないほど」


羨ましがられることは無いと不思議そうに言ったジン。其の存在が既に羨ましい。自分の持ってないものだらけで構成されているジン。背の高いジン。掌の大きなジン。両目の見えるジン。スポーツを好きなだけ出来るジン。男の身体であるジン。全部が羨ましい。どうして、こんなにも自分には何もないんだろうか。


「あと1cm身長があれば…1cmも空に近づけるのに…」


強く強く握っていた掌には真赤に爪の痕が浮かんでいた。紅色の液体が少しだけ涌きだしてきて、掌をちょっとだけ赤く染めた。生きてると、思った。人間なのだと思った。


「紗茅」
「ん?」


ジンは立ち上がって自分の前に立つと、自分を抱きかかえて自分を手摺りに座らせた。手摺りに座ったことで、自分の目線はジンより高いところにある。少しだけ、空が近づいた。吸い込まれそうな青色の空に。「これなら、今まで見えなかったものも見えるよ」そう言って、ジンは何時もより優しく微笑んだ。その笑顔に不覚にも泣きそうになった。けど、泣いてはやらなかった。少し視界は滲んでたけど。

「本当、ジンには敵わないよ」こつん、と自分の額をジンの額と合わせて零す。風が吹いた。自分の長い髪がジンの頬を撫でていった。





【君が見ている景色がちょっとだけ垣間見れた気がした】









(あ、このままキスするのも良いね)(…ふざけたこと言ってると張り倒すぞ?)(紗茅から近づけてきたんだよ?)(よし、帰ろう。教室行くぞ!)(だーめ。放してあげないからね)(詐欺だ!今日も今日とて詐欺だ!)(いつ俺が紗茅を騙したのさ)(今!なんかわかんないけど、騙された気がする!)


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