僕が一年早く生まれていたら、もう少しあなたに近づけたのだろうか。

窓の外に目をやる。5年生が実技の授業をしているのが見えた。どんなに風で砂が舞おうとも、どんなに落ち葉が散ろうとも、皮肉にもすぐに彼、尾浜勘右衛門を見つけ出せてしまう。
どうせ、彼に僕は見えていないのだろう。もしかしたら僕の存在さえ知られていないかもしれない。
そう思いため息を吐きながらも、目を逸らせないままボーッと彼を眺めていた。
彼は笑う。ここからだと本当によく見えるのだ。必死に頑張っているように見えて実は半分の力も出していないこと、仲間をこっそりとフォローしていること、怪我をしても何事もなかったかのように振る舞うこと。
誰も知らない彼のこと。一方的に知りすぎていることが嫌になる。

「喜八郎!授業に集中しろ!」
隣に座っている滝夜叉丸が小声で叫ぶ。しょうがなく教室に目を向けた。
「・・・滝のケチ」
ぼそっと綾部は呟く。お前はボーッとしすぎだ、と、また小声で叫んだ。
綾部は不機嫌そうな顔をして、あーあ、とため息を吐く。
「何だ、喜八郎?」
「別に。ただ僕が一年早く生まれていたら―」
綾部は滝夜叉丸の顔をじーっと見た。滝夜叉丸は綾部が何を言いたいのか予測できない様子だ。
「・・一年早く生まれていたら、滝なんか相手じゃないのに」
「何だと!」
ガタッと机が揺れる。滝夜叉丸は沸点が低いようだ。
「うるさいぞ!」
先生が滝夜叉丸を叱った。すみませんすみません、と、滝夜叉丸はへこへこと謝ってから綾部をキッと睨んだ。そんなくるくると表情が変わる滝夜叉丸を見るのは楽しく、綾部は頻繁にからかって遊んでいる。
「アホ八郎」
滝は呟くように言った後、勉強に集中し始めた。
相手にされなくなり暇となった綾部は、再び窓の外へと目を移す。
もう彼の姿は見えない。先生の姿しかそこにはない。きっとみんな隠れているのだろう。五年生にもなると気配を消すのもとても上手く、そこには誰も存在しない。
自ら隠れている彼を見つけ出すことは、綾部には出来ないのだ。
砂埃が彼を匿おうと、落ち葉が視界を覆おうと見つけてみせる綾部が勝てるのは所詮その程度なのだ。

―そう。
相手なんかじゃないのだ。一年後に生まれてきたやつのことなど。
きっと五年生にはわかっているのだ。僕の知らない彼のことを。

ギリッと下唇を噛む。あがきようのない距離をどう恨めばいいのか。
彼ならばきっと、笑って過ごせるのだろう。何事もなかったかのように。




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読んで下さりありがとうございます。
未熟ながら書いてみました..!本当国語が苦手すぎるんですけど、綾勘が好きです。(キリッ
起承転結などない、ただの綾部の心の中です。片思いです。
お粗末さまでした。