※R-18です





















































 爆豪勝己という男は、大型の肉食獣のようだと麗日お茶子は思う。ライオンに虎にチーター。例えるのは何だっていいが、凶暴な目つきに威圧を感じるほどの存在感、戦闘時における全てを喰らい尽くさんとする力は、人間に本能的な恐怖を植え付ける獣と同等のパワーを持っている。それを目の前にしては自然と身は竦み、ヒーローとして活躍する彼のことを知らないものですら尻尾を巻いて逃げ出してしまうだろう。事実、彼は圧倒的な力に冷静な思考力を併せもち、巡り会ったすべての敵を蹂躙し撃退してしまう。プロヒーローとしての活動を始めてからこの方、負け無しの最強の男として世間に名を馳せていた。
 けれどお茶子はこうも思う。彼は、強いだけではない、非常にわかり難い優しさや情を持った人間なのだと。粗暴で凶悪なだけであれば、今やNo.1ヒーローと肩を並べる若手実力派とは謳われないだろう。職務上のヒーローとしてだけではなく、男としても、こんなに魅力的では恋仲である自分としてはなかなかに気の休まらない、罪な男なのだと。
 口が裂けても言えはしないが、麗日お茶子という一人の女の、それが正直な想いであった。
 ……しかし、その考えが限りなく高純度で間違いであったと、本日この時のお茶子は考えを新たにしつつあった。

「、ぁ………っ」
 ぬるる、と音にならない音を立て、埋まっていたものが引き抜かれていく。彼のそれが、今に至っても硬度を失っていないことに冷静な脳が警鐘を鳴らすが、疲れきった身体には虚しいサイレンに終わる。
 反応らしい反応もできず、息を荒らげながらシーツを握ると、腰に僅かな感触があった。
「お茶子」
 大きなそれが彼の手であると認識した次の瞬間には顎を取られ、静かに口づけられる。少しかさついた唇は震えるほどに熱かった。
 まだ、しようとか言わへんよな。
 そんな一言すら口に出せないほど疲労しているが、重なる唇が痺れるほどに甘いものだから結局は彼に身を委ねてしまう。わかっててやっているのだろうか、ということがお茶子の長年の疑問ではあったが未だに問いただすことはできないでいる。
 セックスに回数というものがあるのだとしたら、今夜に至ってもう3回はこなしている。悔しいことにテクニックもある勝己に翻弄され、何度も絶頂に導かれてきたお茶子にとってはせめて休憩のひとつでも挟んでほしいところなのだが、不意に優しく触れられると何でも許せてしまう気になってしまう。自分も自分で大概馬鹿だと認識しているが、彼も彼だ。と叫びだしたい心境ではある。
 何せ、彼は体力が並外れている。それが彼の彼たる強さを裏付ける理由のひとつなのだが、ことベッドの中でもそれは遺憾なく発揮されていた。
「い、ぁ………、も、むり……っ」
 キスをされながらくるりと体勢を変えられ、真正面から彼のものが再び侵入を開始してくる。それにお茶子はなけなしの弱音を吐くが、聞き入れてくれる気はないらしい。熱く脈打つものを最奥まで突き入れられる感触に、それでもお茶子は背筋を震わせてしまう。抵抗のひとつもできず、動かされるまま声にならない声を上げた。
「は、狭ぇな」
 どこか満足げな声で、勝己がつぶやく。
 呆れてしまうほど何一つ変わらない脈動する彼のものに、飽きもせず感じて背を仰け反らせてしまう自分も中々なのではと嫌な予感を覚えるが、彼でなければこんな反応にはなりやしないのだ。むしろ、こんなふうにしてしまった責任を取ってほしい。
 淫乱扱いせんとってや、と唇を離されたことで再会した彼の顔を少し睨み気味に見つめると、戦闘時のような好戦的な笑みを返される。ぎらつく目がただ自分だけを見ている、たったそれだけでお茶子は何かに拘束されているような気になってしまう。
「何か、文句でもあんのか」
 それがベッドを共にしている彼女に言う台詞か、と内心で突っ込む。端から期待してはいないが、年若い女としてはもう少し甘い言葉のひとつでも頂きたいところではある。それでも表情と言葉に対し自分に触れる手だけは当たり前のように優しいものだから、お茶子の心はぐちゃぐちゃになってしまうのだ。
 この身体が、手が、声が、すべてが自分を求めていると、はっきりとわかってしまうものだから。
「っあらへん、けど、もすこし、ゆっくり、っぁ」
 揺らされながら泣き言のように訴える。すると彼は冗談でも聞いたかのように少しだけ笑って、お茶子の腰を強く引き寄せた。
 最奥の最奥まで抉られる感覚に、視界の端で火花が散る。霞む脳内が最後に見せたのは、ひどく愉しそうに笑う、勝己の姿だった。
「お前、ヒーロー、っだろ」
 じょーだん、ばくごーくんみたいな体力バカに、ついて行けるわけないやろ。
 やっぱり口に出すことはできなかった突っ込みを抱えながら、お茶子はそのままゆるりと意識を手放した。



 目が覚めて最初に見たのは広い背中だった。
 ベッドの端に腰かけている勝己は上半身裸のままで、晒されている背中にはいくつかの傷痕が走っている。その中に恐らく昨夜自分がつけたのだろう引っ掻き傷があるのを見つけ、寝たふりをしようかなとお茶子は布団を引き寄せる。だがしかしその動きで覚醒を知らせてしまったらしく、振り返った彼が「おい」と目を細めた。
「身体、大丈夫かよ」
「ああ、うん。おはよう、ございます」
 昨夜はあのまま気絶してしまったので後のことはまるでわからないが、あれだけしたにも関わらず全くいつも通りな勝己に戦慄し思わず敬語になってしまう。別にこれが始めての行為ではないが、あれだけの回数をこなしたのは昨夜が初だ。にも関わらず涼しい顔で、自分のみならず見ればお茶子の後始末もきっちりと済ましている。さすがに服は着させられていないが、恥ずかしいので別にそれはいい。
 そんな逃避気味の思考を巡らせていると、同じくまだ着替えを済ませていない勝己の逞しい腕が不意に伸び、お茶子の乱れた髪を掻き上げた。
「…悪かったな」
 近距離にも関わらず、交わらない視線。俯き加減の言葉にお茶子は素直に瞬きをした。
 滅多に聞いたことのない、勝己からの謝罪。いや、謝罪と言っていいのかは判然としない、素直になれない小学生が無理矢理謝らせられているようなそれではあったが、お茶子は思わず吹き出してしまう。
「…おい」
「だ、だって、爆豪くん、謝るくらいならしなければいいのに、しかも、っふ」
 たまらず起き上がり、シーツをばんばんと叩きながら爆笑するお茶子の口が不意に塞がれる。重ねられたのはのは間違いなく勝己の唇で、一瞬後にはますます不機嫌そうな彼の顔があった。
「手前が、男誘うような顔してやがんのが悪い」
 吐き出すように紡がれた言葉に結局私が悪いんかい、と頬を膨らませるもそんな顔した覚えはないお茶子はジト目で勝己を見る。すると鼻を抓まれ、痛い痛いと抵抗すると離れた手が「飯。早く来い」と端的な誘いだけを残して離れていった。背を向けたまま去りゆく間際に垣間見えた耳が僅かに赤いのを認め、やっぱり反省してるんや、とお茶子は再び笑む。わかり辛いようでわかりやすい男である。はいはいっと、と呟いてお茶子はベッドから降りた。

 爆豪勝己は肉食獣のような男である。だが、手懐け方も確かに存在するのだ。自分が調教師になれるのかはわからないが、昔よりは理解ができてきた彼のことを何より愛しいと感じてしまうのもまた確かな事実である。お茶子は伸びをして、部屋着に袖を通すと勢いよくドアノブに手を掛けた。彼が待っている。そう思うだけで逸ってしまう気持ちがお茶子を急がせる。
 さて、この扉の向こうには、どんな表情の彼が待ち受けているだろうか。恐らく朝食には手を付けず、意外にも律儀に自分の支度を待っているだろう彼のことを考えれば自然と笑む自分自身に絆されとるなあと苦笑しながら、お茶子は一歩を踏み出した。



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