少し前に流行っていた「例のタートルネック」を着た杏里という設定です。一応文中でも軽く説明してはいますが、もしご存知ない方がいらっしゃいましたらぐーぐる先生にお尋ねくださいませ〜



恥ずかしそうに登場する姿に飲んでもいない茶を吹き出しそうになった。
師走、寒い夜のこと。俺は杏里が一人暮らしをしているアパートに呼ばれ、今夜はここに泊まることになっていた。
付き合ってそろそろ半年が経ち、お互い一人暮らしをしているため部屋に呼び呼ばれということは今まで何回かあった。今日もその一環で、明日は休日ということもあり思う存分休日前ののんびりとした時間を過ごそうと思っていたのだ。
一番風呂を譲ってくれようとした杏里の好意をありがたく思いつつも、やはりこの部屋の主は彼女なのだから気にせず先に入ってくれという意思を伝え、どこか申し訳なさそうに彼女が浴室に旅立って約30分後、風呂から上がった杏里の声に振り返るとそこには信じられない光景が広がっていた。
いや、信じられないというかこれは現実なのだろうか。前述の通り俺は杏里の部屋に泊まったことは何回かあるから風呂上がりの姿は見慣れている。ではその姿はどんなものかというと、当たり前だが大抵寝るのに相応しい格好、つまりはパジャマだった。だが、今はどうだ。
下半身はいい。無地で落ち着いた色合いの、記憶にあるままの彼女が良く着ているいつものパジャマのズボンである。しかし。ここまで言えばわかるだろう、問題は上半身なのだ。それもとりわけ、ある一部に俺はここまでの動揺を感じていた。
色は白。俺はファッションに疎いため詳しくはないが、暖かそうな生地のタートルネックである。それだけなら暖房が効いているとはいえ夜は冷え込むからということで納得できるのだが、その、胸元が空いているのだ。詳しく描写するのは憚られるが鎖骨の下あたりからぱっくりと布地が寸断されており、丁度胸元が見事に覗いてしまっている。しかもそのタートルネックの生地は身体のラインを際立たせるようなぴったりとしたものであり、杏里の、あー、何つうかサイズの大きいそれが普段よりその存在を主張しているのだ。
思わずリアクションも取れずに固まった俺を見て、最初は恥ずかしそうに俯きがちだった杏里の表情が強張ってきた。まずい、驚きのあまり訝しげな表情でもしていたのかもしれない。杏里の気分を落ち込ませてしまっていることに俺はすぐにでも返答をしなければならないと思ったのだが、情けなくも喉は何一つ上手い台詞を紡ぎ出してはくれない。すると杏里が目線を下げながら言った。
「あの…、やっぱり、変、ですよね…」
縮こまった声に俺の声帯はようやく動き出した。悲しそうな表情なんか見たくない。慌てて言葉を返した。
「いや、変なんかじゃねえよ。…悪い、ちょっと驚いただけだ」
素直な気持ちを告げると目線が上げられ、杏里の瞳とかち合った。俺の表情を見て少し安心したように強張りが外れてくる。大切なこいつを安堵させてやれたことに俺自身もほっとしつつも本題に入った。すなわち、なぜいきなりそんな格好をしたのかということだ。
「だけどよ、どうしたんだ、その格好?新しく買ったのか?」
「いえ、これは岸谷先生から頂いたんです。今日、たまたま外で岸谷先生とお会いして…。面白いものがあると言われて、お部屋まで着いて行ったらこの服を見せられたんです。今流行りのものらしくて、静雄さんの前で着てみるといいよって勧められて…」
薄々そんな予感はしていたが、元凶はあの闇医者だったらしい。恐らく、何かの経緯でこの服を手に入れて、たまたま出会った杏里に面白がって渡したんだろう。俺のリアクションを想像して玩具代わりにでも使ったんだろうな。そう思うと蟀谷に青筋が立つのが自分でもわかるが、今は目の前の状況に向き合わなければいけない。あの野郎、俺がこうして一旦脇に置くことまで計算してやがったな。
「あの、やっぱり、似合ってない、ですよね…。元はセルティさんのものだったらしくて、君にも似合うと思うよって岸谷先生は言ってくださったんですけど…サイズが違いますし…」
そう言って杏里は自虐的に微笑むが、セルティのもの云々という問題ではない。そもそもあいつなら影でいくらでも服を作れるから既製品など不要だろう。それにサイズが違うというなら明らかに胸のことだろうし、俺がまだまともな感想を言えないのは眼前に広がるものを直視できずにいるからなのである。少々過激すぎるファッションはまだ高校生の杏里には早いと思うし、にも関わらず醸し出される色気は正直かなり危険なレベルだ。それは俺がこうして固まってしまうことで自分に自信のない性格の杏里を悲しませることになってしまうということをわかっていても尚と考えてしまうほどの破壊力だった。
しかし。睫毛を伏せる杏里の小動物のような雰囲気が。黒髪とタートルネックの白い生地、それに負けずとも劣らない白い肌が。主張を続ける胸元が。俺だって男だ。残念ながら、恋人のこんな姿を見て我慢ができるほど人間が出来ているわけではなかった。
俺は立ち上がり、未だ登場した時のまま立ち尽くしている杏里の傍へ向かう。
お互いに立ったまま向き合うと身長差のため杏里の顎が持ち上げられ、俺はかなり深く首を曲げることになる。自然と上目遣いになる目と、その下のどこまでも白い胸元がダイレクトに視界に入り、眩暈がするような錯覚に襲われながらも言った。正直な気持ちだった。
「似合わないことなんかねえよ。むしろ、似合いすぎて直視できねえ」
黒く艶やかな髪を少し手に取る。びくりと震えた杏里の頬は一気に赤く染まった。その反応が可愛くて、もっと近くで見たくなってしまい俺は背を少し曲げた。風呂上がりの、爽やかな石鹸の香りが微かに過ぎった。ああ糞、新羅、後で殴る。
「すげえ、可愛い。杏里」
間近で瞳を合わせると林檎よりも赤くなった顔の杏里が小さく息を漏らす。その息が触れるほど顔を寄せると瞳が揺れ、杏里は小さく「静雄さん、」と呟いた。俺も赤くなってしまっているだろう。気恥かしいが、こんなに可愛い彼女を前にしたら仕方のないことだ。なんて責任転嫁をし、その赤い頬をゆるく撫ぜる。また小さく震える杏里。ああ、可愛い。もう駄目だ。限界が、近かった。
俺はそのまま杏里にキスをした。小さく柔らかいそれは一瞬だけ強張ったが、すぐに緩めて受け入れてくれる。少し開いたその間に舌を潜り込ませると、暖かい中が俺を迎えた。僅かに息が零れた。片腕で杏里の肩を抱き寄せ、更に距離を縮めると彼女も小さく、俺の服の裾を握る。そんな仕草さえ、愛しさが込み上げて、俺は何度も何度も唇を押し付けた。まだ慣れていないため不器用なものではあるが、少しでも杏里を感じたかった。
暫く経ち、ようやく解放すると杏里は涙目になって息継ぎをする。頬は尚赤く、その色とその下の白さが新たな対比になっていた。我慢出来ず、また唇を重ねる。もう片腕を腰に回し、静かに膝を折ると同じく素直に屈んでくれる。そのまま床に腰を下ろした。
「静、雄さん…?」
ほんの少し顔を離すと、杏里が息をしながらも小さく疑問の声を漏らす。きっちり整理のされた部屋なのは承知しているが、周囲に物がないことを確認し、俺はそのまま身体を前に倒した。肩に触れていた手を杏里の後頭部にやり、ゆっくりと押し倒す。胸元が一瞬視界に入ってぐらりと脳が傾いだ。
その豊かな膨らみに触れるとびくんと揺れた。そんな反応が逐一愛おしくて、再び、杏里の瞳を見つめた。杏里は可愛いが、俺の前以外ではこんな格好はしないでほしい。もちろん新羅の前でもだ。俺だけが、この姿を見られている。そう思うと満足感と幸福感が沸き上がってきて、丸い頭を撫でた。
スイッチは自分で入れたが、きっかけとなったのは紛れもなく杏里だ。やや理不尽かもしれないが、男の前でするに相応しい格好ではないだろう。それを伝えるためにも、俺は真っ赤になってはいるものの逸らされない視線に宣言をした。
「責任、取ってもらうからな」
愛しい彼女は微かに目を見開くと、そのまま静かに瞳を閉じた。答えは言わずと知れている。追うように、もう一度だけ唇を重ねた。


Thanks:約30の嘘



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