「…何を、なさっているんですか、王子」
下の男が心底不思議そうな声で言った。いや、不思議と言うよりは訝しんでいると言った方が近いかもしれない。現に眉は寄せられていたし、声色はいつもよりどことなく低い。この男は僕といる時は決まって仮面のような笑顔ばかりを浮かべていたが、今回ばかりは愛想笑いを保てないのかもしれない。なぜなら僕は今、ベッドの上に仰向けになっている中田の上に跨り、彼のズボンを捲り上げているのだから。
中田は背は低くない。僕よりは低いものの基準から言えば成人男性としてはごく当たり前の身長だろう。だけど異様に細かった。肉の付いていない薄っぺらな裸足から始まり、足首なんかは僕の手首と比べてもどっちがどっちか区別が付かないかもしれない。筋肉がないわけではないのにこの細さは「虫」の身体的特徴と栄養状態の悪さにあるのだと思った。だからと言って何がどうと言うわけではない。こいつは元「虫」で、僕はそうでない、それだけの話だ。だがそれは僕を酷く興奮させた。よるくもの美しくも激しい殺しの様子も血が沸騰するような熱を僕に与えるけれど、目の前に広がる光景はそれ以上のものがあった。不格好に痩せ細った中田の足が僕の前に晒されている、それだけで僕は満たされたのだった。
「ちょっと、」
片足を足の付け根まで捲り上げたところで、僕は中田の足に唇を寄せた。申し訳程度に其処此処に生えた脛毛が鼻を擽ってくしゃみが出そうになる。それは耐えて、舌を出して脛部分から上に向かって舐めていく。中田は抵抗する。当たり前だろう、いきなり足を舐められてされるがままの人間なんていない。…それが正常な人生を歩む者だったら。しかし僕は荒磯の王子だ。それから中田は歯牙ない雇われ店長。彼が僕に対し本気で抗えるわけがない。身じろいでも止めない僕を見て、中田は小さく溜息を吐いたようだった。
膝を過ぎ、辿り着いたのは骨に皮を張っただけのような腿である。そこまで行くと僕は舐めるのを止め、再び唇を押し付けた。そのままでいればいつか僕の唇の跡が付いてこの男の腿に烙印を落としてくれないものかと思ったがそんなことはできるわけもなく、僕は口を開き、そこに歯を突き立てる。ぴくりと半身が動いたのは、ここが中田がなぜだか痛覚を取り戻したという左側の足だったからだろう。流れる血を啜り、肉を噛むように歯を埋め込ませる。中田の手が僕の頭に触れた。一旦離し見上げると中田は機嫌を伺うような薄ら笑いを浮かべ僕に聞いてくる。
「新しい遊びですかね、これは」
僕はにっこりと笑った。遊びと言えばそうだし、そうではないとも言える。唇の端から啜った中田の血が垂れて白いシャツを汚した。ああ、烙印ならこれで充分だろうか。



(ぼくのものになってよ)





腿への口付け:支配



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -