唇が触れ合う時、屈まれる身体。さらりと額の上に降ってくる少し癖のある髪を感じ、氷柱は僅かに瞼を伏せる。
自分と神志名との間に空いた年の差は、願ったところで埋まるものではない。そのこと自体は理解している。しかし、同じ大学の先輩であり、そして司法の世界から見ても自分より遥かにたくさんのことを実地で見てきている彼にとって自分は、いつも手を差し伸べなければならない存在なのだと暗に示されている気がして、氷柱はこういう時は少しだけ静かになってしまう。
すると唇を離した神志名が、不思議そうな目をした。しかし、俯いたままの自分に何かを感じ取ったのか、苦笑のように息を漏らす。ほら。こういうところが大人なのだ。そして自分は、いつまでも子どものまま。時が過ぎれば年は取るが、それでも彼にとってはいつまでも子どものまま、その差は埋まらない。
その振る舞いに憧れるのと同時に、自分のどうしようもない幼さを知り、喉の奥が痺れるのを感じる。だけれど泣いてしまったらそれこそ、幼い子どもになってしまう。ぐっと堪えた時、神志名がぽんと頭上に手を置いた。
「腹減らないか」
優しげな色が漏れた。柔らかいその声音に、氷柱は顔を上げ、微笑む。彼からの気遣いにさえ自戒を続ける気はなかった。けれどもその笑顔はいつもより下手くそになってしまったのだろう、神志名はそっと氷柱の手を取った。
「あのお店、行きませんか」
触れた体温が暖かく、軽く唇を噛み締めてから氷柱は言った。示したところは二人のお気に入りであり、少し特別なことがあると訪ねると決めている店である。神志名は首肯するように笑って歩を踏み出す。絡まった指先に熱が移っていくのを感じながら、氷柱は視線を正面に向けた。
二人の間を風が通り抜ける。傍らの髪が靡く気配に、少しだけ大きく、次の一歩を踏み出した。



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