例えば。巨人の手により無残に殺された同志達に、仮に転生という次の未来が待っているのなら、彼女の次の人生はどんなものだろうかと、リヴァイは考える。
真っ先に思い至るのは「彼」の隣で幸せそうに笑う姿である。己が「彼」を傷つけた時に見せた目、何に代えてでも守ろうとするあの大切な少年のために、不器用な笑顔を見せる姿。何の脅威もない世界で、女としての幸せを噛み締めながら生きていく生、それが最も望むべきものなのだろうと思考し、苦笑した。何せ最期まで守ろうとしたのだから。
そう、彼女は強かった。しかし油断した。巨人化したエレンが他の巨人に襲われ、思わずそちらに意識を向けてしまったのだ。一瞬の隙だった。だが動きを止めるには充分な時間だった。喰われたのではない、壁に叩き付けられたのである。
そのおかげと言っていいのかもしれない。今こうして、五体満足の彼女を腕の中に抱えていられるのだから。だが腹部は衝撃により破れ、もはや治療不可能なほど大量の出血がリヴァイの胸から下半身までをぐっしょりと濡らしている。
汚いとは思わなかった。彼女は巨人ではなく、共に闘ってきた仲間なのだ。いや、ここまで来てらしくもない建前を使うのはよそう。
エレンはまだ気が付いていない。撤退命令が下された今、回収された彼は未だあの巨人の中だろう。目が覚めたら面倒臭いことになるな、とこんな時に関わらず舌打ちをしたくなった。
彼女を抱え直す。黒く艶やかな睫毛は再び動く気配を見せず、若々しく紅く色付いていたはずの頬は青白く固まっている。ああ、と嘆息した。彼女は、戦っている時が一番美しかった。
薄い唇に己の唇を寄せる。信じられないほど冷たいそれに、一筋頬を雫が伝った。目を開き、正面に視線を向けた瞬間にはそれは無かったことになる。
立ち止まってはならないことを、彼はよく知っていた。希望を負う背には、出来る限り、余計なものを乗せてはいけないのである。今日のことも、いずれ振り返るだけの思い出に変わるだろう。今まで見送ってきた、幾人もの仲間と同じように。それでも、とリヴァイは一つ拳を作る。背後でハンジの声が聞こえた。重い身体をゆっくりと横たえさせ、立ち上がる。
幸せになるといい。新しい人生に己が関わることには興味がないが、あの白い手に似合う花でも抱えて、微笑み暮らしていく未来を願う。自分たちにも撤退命令が出されたという旨を聞きながら、後ろ髪を撫でた風に天を仰ぐ。
──「願うだけならありでしょう?」
耳元を掠めた彼女の声に、違いない、とリヴァイは笑った。



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