「よかったわ!レッドもグリーンくんも!」
僕らがようやく家に着いたころには雲は晴れていたけど、太陽はとっぷり沈んでいて、別の意味で暗くなっていた。
「ごめんなさいお母さん…ただいま」
「いいのよ!無事なら多少無茶したって!男の子だものね」
赤い屋根の見慣れた我が家を視界におさめると、その扉の前にお母さんが立っていて、怒られるかも、なんてグリーンと覚悟してアイコンタクトをとった後駆け寄ると、予想に反して、お母さんは随時と嬉しそうだった。よかった、なんて胸をなで下ろして、もう一言謝ってから抱きついてみたら、どういうことなのかお母さんが笑いだしたのだ。
「あらあらレッド…可愛いお友達を連れて来たのね、」
一瞬何を言われたのかわからなくて首を傾げると、首元にふわりとしたこそばゆい感覚がして、思わず背筋が伸びた。気づいてなかったの?というお母さんの笑い声に少し恥ずかしくなりながらそれに手を回すと、正体は
「コラッタ!」
抱きかかえてみると予想より重くて、なんで気づかなかったんだと自分を笑いたくなった。
「そいつ、レッドのリュックん中で雨宿りしてたんだぜ?」
「そうなの?」
グリーンの笑い声を受けて僕が問いかけるとコラッタは目を細めてすり寄ってきた。可愛いなあ、なんて思うと自然に口元が緩む。けれど、
「やっぱりお父さんの子ね、レッドはポケモンがよく似合うわ」
それは一瞬だった。僕の耳が敏感になっているのか、確かにその言葉が異質だったのかはわからないけれど、久しぶりに聞いたその響きは確実に僕の心を冷やした。
「もう少しで、きっと素敵なトレーナーになるわね」
柔らかく優しいお母さんの声に泣きそうになった。
そうか…お母さんの本当の幸せはそっちにあったのか。
僕のささやかな感情の変化は隣のグリーンだけが拾ったらしく、
「でもレッド、俺達はまだ、だからな!ちゃんと逃がしてこようぜ?」
と、明るいいつも通りの声で僕を外に連れ出してくれた。

「レッド……、」
「この子、雨止んでから逃がした方がいいかな?」
「あ……ああ、いや、そこ!ほら、ラッタだ!」
「あ、ほんとだ…お迎えだね」
グリーンが僕の名前を呼んで何か言いかけたけれど、なんとなく雨の音のせいで聞こえなかったようにしてそう切った。グリーンが指差す方向にラッタと数匹のコラッタを見つけてから、腕の中のコラッタを地面に降ろした。
「ねぇ、コラッタ…もし僕が、もう少しして、またあの森へ行って、君に会うことがあったら、」
僕の言葉は雨音に消されそうになっていたけど、きちんと届いただろうか。言い切った後に、頭の上に不器用な掌がぽすりと置かれたから、さほど小さな声ではなかったのか…。相手が僕の言葉をなんでも拾ってしまうグリーンだからわからないけど、まあいいだろう。きっと、伝わったと思っておいても。
「ねぇグリーン、あと何日だっけ?」
「35日後出発予定!」
そう言ってグリーンは笑った。僕はこれから忙しくなるだろう。


「もし、もう一度会ったら、僕と一緒に、旅をしてくれる?」


旅にでる前に必要なこと

(それはきっと)(前へ進むための決意と覚悟)






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