「グリーン!どうしたの?」
「じいちゃんとこのナゾノクサが脱走したんだ!」
「僕も探すの手伝おうか!」
「おう!」
その日もなんでもない日になる予定だった。朝から窓を開けて、グリーンが見当たるようなら一緒に出掛けようかな、なんて考えながら起きた、なんでもない日。けれど、予定通りに服を着替えて窓を開け放つと、必死に走っているグリーンとオーキド博士が見えた。グリーンを呼び止めるとどうもそういうことらしく、僕は日常を崩した原因を捕まえるために靴を履いて外へ飛び出した。
「どっち行ったの?」
「わかんねぇ…けどじいちゃんが草花の多い所だろうって」
「じゃあ裏の林じゃない?」
僕とグリーンはこの狭いマサラを遊び尽くすには充分過ぎる時間を持て余していたから、正直博士達よりも細かい地理には詳しい筈だった。けれど、

「あっ……!いた!」
「よかった……」
足を痛めているからと博士のところで保護されていたナゾノクサは不安だったのか寂しかったのか、その傷ついた足を引きずって、自分の住処へ帰ろうとしていたところだった。
「ほら!捕まえた、帰るぜー?ナゾノクサ、」
グリーンが見つけて抱き上げると、ナゾノクサはやはり体を捻ってどうにかグリーンの手から逃げようとする。どれだけ小さくとも、ポケモンと人間なのだ。グリーンはいともかんたんにかわされてしまい、ナゾノクサはまた草叢へと走っていってしまった。グリーンもグリーンで悔しかったのか不安になったのか、僕に目配せもせずに後を追って走っていってしまった。僕は一瞬博士達を呼びに戻るべきだろうかとも考えたが、考えている最中から僕の足は自然とグリーンを追っていたのだからしかたがない。僕は考えを放棄してスピードを速めた。

「グリーン!グリーンまって!」
辺りが暗い。僕がそれに気づいてグリーンを呼び止めたのはもう足元がよく見えなくなってからだった。
「レッド…!?」
本当に無意識だったのかグリーンは突然呼び止められたことに些か驚いてみせてから足を止めた。やっと周りの状況が見えたらしかった。
「悪いレッド、」
「そんなに時間は経ってないと思うけど、雨が降りそう……」
「ああ、引き返すか」
漸く掴んだ手から安心が伝わるのを感じたが、帰ろうと後ろを振り返って、僕らはまた別の不安を見つけてしまった。
「え……っと」
「レッド、道……」
「……ごめんわかんない」
「……悪い」
すっかり太陽が雲に覆われた道は只でさえ視界が悪いのに、周りは同じような木と草叢だけだ。それに、多分もう地理的にもマサラから出ているのではないだろうか。どこかの道路の裏まで出ているのだろう。もうそこは僕らの勝手知ったる林ではなかった。
「やばいな…とりあえず真っ直ぐ引き返すか?」
「うん、ちょっと動きながら雨宿りできるとこ探した方がいいかも」
こういう時、割と学校の知識というのは役に立つものだ。だてに旅立ちのための教育をされていない。
「野生に遭遇しないように草叢避けた方がいいな」
「避けれそう?」
「ああ」
ついでに言うと、僕もグリーンも成績はそこそこだった。興味があるものというのはよく頭に馴染む。卒業後それを活用するかどうかは別として。


旅にでる前に必要なこと

(少しだけ崩れた日常が)(僕のこれからを左右する)






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