「お母さんは、」
後に言葉は続けられなかった。お母さんが優しく微笑みながらなあに、と聞き返してくれたけれど、僕は仕方なく
「グリーンのところへ遊びに行ってくるね」
と理由をつけて家を飛び出した。

「レッド……?どうしたんだよ、」
「別になんでもないよ、黙って立っててよ」
僕が家から出るために使わせて貰った理由は強ち嘘ではなく、というか僕が家を出て行くところなんて他にないのだけれど。僕がグリーンにそれはもう文字通り飛び込むとグリーンは多少吃驚しながらも、いつものことだと踏ん張った足で受け止めてくれた。
「なんかあったのかー?」
「なんでもないってば」
「ほら、俺様に言ってみ?」
ふざけた調子で先を促されて、頭をぽふぼふと些か乱暴に撫でられて、僕は
「…迷ってるんだ」
と切り出した。誰かに自分の意見を述べることはあまりいいことだとは思えない。何故って人はどうしたって独りの個体なのだから、僕が意見を口にしたって、理解でき得ないその僕の理論を相手は持て余し、優しい人なら尚更、それがその人の重みになってしまうことを僕は知っているからだ。
「なにを?」
「……ポケモントレーナーに…なるかどうか」
だったらどうして、僕は今目の前の別個体であるグリーンにこんなことを言っているかって。それは簡単なことなのだ。
僕はグリーンを自分から切り離した個体として認識していない。
いや、できていないと言った方が正しいのかもしれない。グリーンは僕の中にやっかいな自我が生まれたころには既に僕の隣にいて、彼は既に僕の一部だったからだ。彼は知識欲というものが人一倍強かった。なんでも知りたがって、なんでもそれをものにした。そんな性格も相俟ってか、グリーンはよく僕の心深を知りたがって、うまく僕を誘導尋問する術を覚えてしまっていたのだ。
「なんで!?お前ならねぇの?」
「だから迷ってるって言ってるだろ」
そして僕自身も、グリーンの前だと驚く程口が回るのだ。グリーンが言わせているのだ、と彼のせいにして僕はまだ人間であるらしかった。
「母さんが…ね、」
「心配すんなって!俺も姉ちゃん一人にすることになるけど、俺達よりずっと大人なんだ、俺達の好きにさせてあげたいって思ってるもんなんだって、言ってたぜ?」
「そうだけど、それはつまり大人だから我慢するっていうことなんじゃないの…?」
ううんと悩んで斜め上を見て考えをまとめるグリーンに僕は本当に甘えているのかもしれない。だって僕は迷っているといいつつも今、何も考えずにグリーンの次の言葉を待っているのだから。
「まあ…どっちにしたって俺は止めねぇけどさあ…」
お前が行きたがってるのは、思ってるより人にバレてるもんだぜ?
とグリーンは続いて笑った。それは残ったところで逆に気を使わせるということを言いたかったのだろうと思うけれど、まあいいや、今日は林の散策にでも行こうぜ!と言われたことで、僕はその先思考を回すことを止めた。


旅にでる前に必要なこと

(僕がお母さんを守らなくちゃ)(そればかりが頭を巡る)






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