「それで……わしの…………だったんじゃよ!……そしたら………その後………――」
かれこれ時計の針が半周するくらいの時間を、レッドはそこに足止めされていた。少し大きめのふかふかしたソファーに座わらされて、永遠と隣のにこやかなおじいさんの話を聞くだけ。しかも、レッドもレッドで、ポケモンの話だからか妙に聞き入ってしまって、人に触られるのが嫌いなピカチュウが扉の側でバチバチと電気を散らしているのにも気づかないくらいだった。あんまりにも痺れを切らし始めたピカチュウが僕の方をなんとかしろと睨んでくるものだから、僕は仕方なしにダネ、と一鳴きした。
「お?おお!すっかり話し込んでしまったな!」
僕の一鳴きに気がついたのは、そのおじいさんの方だった。はっはっは、と大きな口を開けて笑いながら僕を撫でたおじいさんは
「君の活発なポケモンはこんな部屋の中ではつまらなかったろう!いやはや悪いことをした!」
と言ってから立ち上がって部屋の奥の棚から小さな紙を取り出した。(なんだかデジャヴだ)
「これは年寄りの長話に付き合ってくれたほんのお礼だよ!」
おじいさんが差し出したその紙を受け取ったレッドは、珍しいものに興味を持って走り寄ってきた、さっきまで字のごとく頬を膨らませていたピカチュウにも聞こえるように声に出してその内容を読んだ。
「ミラクルサイクル、自転車引換券?」
「ああ!ハナダにある自転車屋だよ!わしはもう自転車を乗り回せる程の元気は残っとらんからな!」

「ハナダだって…少し戻ろうか」
やっとの思いで“だいすきクラブ”から出た時、陽はもう真上まで来ていた。これからさっきの街まで引き返すらしい。珍しいなと少し思った。

「すみません、」
カランとお店独特の音が鳴る。(それがレッドが何かを買う建物のドアについているベルの音だと知ったのはつい最近だ)
「はいはい!何か御用ですか!」
「これ、」
ハキハキとした喋り方のその人はレッドが渡した紙を受け取ると、
「ハーイかしこまりました!」
と叫んでから奥へと消えた。
「こちらですね!」
再び大きな声と共にその人が運んできたのは妙な機械だった。
「ありがとうございます」
珍しくはっきりと喋ったレッドはどことなく嬉しそうな顔でそれを外に運びだした。
「ダネ、ピカ、おいで、乗れるかな……」
外へ出るとそれにレッドが跨っていて、僕らを呼んだ。一声応えてから倣って飛びのると(ピカチュウみたいに肩に乗れない僕は不利だ。)レッドはせーの、と言って、足を、浮かせた。
それから、グンと前に進む感覚がして、僕らは風の中へ突っ込んだ。ピカピカ!と肩のピカチュウが煩いけれど、僕もわりと騒ぎたい気分だ。僕には普段体感できない速いスピードで風を切る感じがとても気持ちいいし、なにより、見上げたレッドがとても楽しそうだったから。

僕の自転車

(その後派手にすっころんだけれど、レッドが放った軽やかで本当に楽しそうな笑い声のせいで、僕らは暫く地面に座り込んで笑いあった)


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私11才のときってまだ自転車乗れなかったんだよなあ。


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