のったりのったり、ぼくは進む。鬱蒼と木々が生い茂るこの森は、ぼくには随分居心地がいいものだったし、ここでのゆったりした生活がぼくは大好きだった。ある日は知り合いのコクーンさんがトレーナーと旅立ったり、バタフリー姉さんなんかはトレーナーについて行ったりもしたけれど、僕はきっとそんなこともなくずっとこのトキワの森で立派なバタフリーになるんだと思っていた。

ある穏やかな陽の降る昼下がりだった。僕はうっかり「キャタピー?」なんて人間の声を聞くことになってしまった。ハッとしたのもつかの間で、その声の主はすぐ目の前まで迫っていた。その人は、この森ではあまりに目立つ色をしていた。
と、暫くぼくがそのチカチカした色に目を奪われていると、なんだか変な音と一緒に球体からフシギダネが出てきた。(確かあれはモンスターボールだ。ぼくらを入れて運ぶ道具。)
「フシギダネ、はっぱカッター」
そこから先の、記憶は途切れた。なんだか体が重くて、動かしたくなかったことだけは覚えてる。

「出ておいで、」
ふっと目の前が白くなった。光だ。ぼくの大好きな森の木々からの木漏れ日。
「大丈夫…?」
そして目を開けると、
(キュイイイイイイイィィ!?)
自分でも吃驚する程の声が出た。だって目の前に人間の顔があったんだ。
「…び、っくりした」
あんまり驚いてなさそうな顔でその人が言うもんだから妙に落ち着いてしまう。それに、その人の目が、さっきのチカチカする赤と違って、とっても深くて吸い込まれそうな澄んだ赤だったから。
(キュイ?)
ぼくがこの状況を知るために出した声は、さっきのフシギダネが拾ってくれた。
(君はレッドのポケモンになったんだよ)
(けれど、きっと君が嫌だと言うなら逃がしてくれる、僕はレッドのポケモンであることもとてもいいことだと思うけど、)
フシギダネはレッドを穏やかな瞳で追いながらぼくにそう言った。

その次の日はまだ決断しなくても良いと言ってくれたフシギダネに甘えて、この辺りを散策するというその人、レッドについて行った。ぼくは昨日のうちに傷薬をつけてもらって元気になったので、数回バトルに出してもらった。
あんまりに、驚いた。
「キャタピー、」
そうぼくにかけられる澄んだ声。訳も分からないままその声に導かれるように動くと、瞬く間にぼくと対峙していた相手は倒れた。いつの間にか、ぼくはスピアーまで倒してしまって、言い知れぬ熱い感動が込み上げてくるみたいだった。ぼく達にはあらかじめ闘争本能、というものが備わっていて、多分、バトルをして勝てるというのは備わった至福なんだと、そう思う。なにが言いたいかって?
ぼくはその日、トランセルへと進化したんだ。その時、レッドはぼくに聞いてくれた。止めることも出来るよ、って。だからその時に(ぼくは、レッドと一緒に強くなりたいな、)って答えたんだ。そうしたらぼくのキュイイという音にしかならなかった声を、不思議とレッドは拾ってくれたみたいで、優しく笑って言ってくれた。
「おいで、トランセル」

ぼくの旅立ち

-----------------------
多分ボックス行き。レッドのパーティー空きの2匹がいまいち固まりません。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -