僕を選んだ少年はもうひとりの、ヒトカゲを選んだ少年よりも細くて静かな子だった。黒髪で僕とお揃いの赤い瞳を持った、綺麗に笑う男の子。
「これからよろしくね、フシギダネ」
そう言った声はよく僕の中に響いて、恐る恐る撫でてくれた手の暖かさは、体がすっかり違えてしまった今でもよく覚えている。まるで、そう、まるで僕の大好きなお日様が降りてきたんじゃないかなんて思って、僕はこの人に選んでもらって本当によかったって思ったんだ。
「僕はね、レッドって言うんだ。君は、ね?僕の初めてのポケモンなんだ!」
僕の生まれ育った研究所も、見慣れた町並みもどんどん小さくなっていって新しい風景が広がっていく。その道すがら僕の小さなご主人様、レッドはぽつりぽつりと僕に話しかける。ダネって小さく鳴くと一瞬驚いたみたいに目をまんまるくさせてからとびきりの笑顔をくれた。

それから最初の夜のこと。町から随分離れたんだろう。レッドは見た目とその喋り方に反して割と活発的な性格だったらしくてずんずんずんずん進んでいった。(しかもなんか天性的なバトルセンスというのかなんなのか、僕が初めてのパートナーな筈なのに妙に指示が上手くて、全然僕が疲れないもんだから道を引き返すことも殆ど無いんだ。)だから辺りは人工の灯りなんて全くなくて真っ暗だった。「今日はここで野宿ね」って言ってからのレッドの行動もテキパキしてて、本当に凄いなあって思ったんだ。だけど寝袋にくるまって「おやすみ」って言った筈のレッドが真夜中になって僕のボールをコンコン、と叩いた。
「ごめんね、眠い?」
僕をボールから出すとそう聞いてきた。僕にとっても初めてが多過ぎた今日。眠くないはずはないのに僕は瞬時に首を横へ振った。(レッドの綺麗な赤が、とても不安気に揺れていたからだと思う。)
「…ちょっと僕…えっと、ごめんね、今日、ずっと、ボールの外、」
昼間とは違う小さな消えそうな声。確かに今日レッドはずっと僕を連れて歩いた。別に何の不満も疑問もなかったけど、そうか“ポケモン”は“モンスターボール”に入るんだった。
「グリーンは先々行っちゃったし……」
グリーンっていうのはもうひとりの方だ。今日だけで随分話を聞いた、レッドの幼なじみだ。
「次の町に行くまででも、僕が思ってたより、ずっと遠くて」
ああ、わかってしまった。きっとレッドは不安だったんだ。レッドは、僕が思ったより、ずっとずっと、普通の人間の子供なんだ。どれだけバトルのセンスがあっても、勇気や行動力があっても、僕達なんかよりずっとずっと弱くて脆い、人間、なんだ。
「フシギダネ?…一緒に、寝てくれるの?」
僕がレッドの寝袋に入って顔をのぞかせると、レッドはまた、とびきりの笑顔を見せてくれた。だからその笑顔にこっそり誓ったんだ。僕が、この笑顔を守ってみせるって…!

小さな決意

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レッドとフシギダネの最初の1日


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