Felicidades




雲一つない真っ青な空に、まだ少し冷たい2月の風が髪を揺らす。

校内ではたった今、4限が始まるチャイムが鳴った。

確か自分のクラスは現国だったか。

授業とはまったく関係ないのに、理由を付けては直ぐ古代ローマの話をしたがる教師にウンザリして、このまま昼休みまでサボろうと、3人で頷いたところだった。



「ねぇトーニョ、こっち向いて?」



ポカポカ陽気にあくびをしようとしたら、フランシスが肩を叩いた。

何かと思い横を向けば、何の躊躇いもなくキスをされる。

まるでそうするのが当たり前のような、自然な流れ。

ふわりと香る女物の香水に、整った顔立ちのフランシスやから似合うんやな。
そう思ったときだった。



「何やねん急に」

「ヤダ冷たい!何お前、不感症なの?」

「ンなわけあるか。毎朝ビンビンや」

「えーどこどこ?ちょっとお兄さんに触らせて」

「ちょ、アホ!どこ触っとんねん!」

「お前等はもっと恥じらいと言うものを覚えた方がいいと思うぜ」



ケタケタと笑いながらジャレていると、紙パックのストローを咥えたギルベルトに呆れた顔をされる。

その顔のままため息も吐かれたけど、よくあることだ。



「今日はトーニョの誕生日でしょ?だからプレゼントをあげようと思って」

「普通のプレゼントじゃつまんねーからキスでもするかって言ってたんだけどよ、まさか本当にするとは思わなかったぜ」



仰向けになった俺に跨がるフランシスの肩を叩いて退かせる。

そう言えば今日は自分の誕生日だったかと、出掛ける時に母親に今晩何が食べたいかと聞かれたことを思い出した。



「そんならギルちゃんもキスしてくれるん?」

「ブフォゥ…ッ!?」



盛大にジュースを吹き出したギルベルトに、フランシスが「ヤダ汚い」と顔をしかめる。

器官に入ったらしいジュースにゴホゴホと咽せる姿に、ニタリと笑った。



「プレゼント、くれるんやろ?」

「キスしてやるとは言ってねーよ」

「そんなら何くれるん」

「え、…あ、」

「それはいらん」



迷いながら差し出された飲みかけのジュースを、一刀両断でお断りする。

売店で売っている“ほくほく塩味ジャガイモバター”と書かれたどう考えてもゲテモノ臭しかしないジュースを好んで買う奴は、恐らく校内中探してもコイツしかいないだろう。

残念そうにおずおずと戻されたジュースには、残念ながら何の哀れみも感じない。



「いいじゃないキスくらい」

「しねーよ」

「ならお兄さんとする?」

「何でだよ!!」



怪しい笑みを浮かべながら迫るフランシスに、ギルベルトが座ったまま後ずさる。

ワァワァと腕を振って抵抗する度、持ったままのジュースが揺れる。

今にも押し倒されそうなギルベルトに、ふと思い付いて、徐に近付いた。



「なん──っ!?」



だよ。
と続く筈だった言葉は、突然腕を掴まれた事によって、その場で止まる。

見開いた目は、その先に持っていたジュースへ。

掴んだ腕を引き寄せて、舌先でストローに触れてから、それをゆっくりと口に咥える。

わざと鼻から吐息を零して液体を吸えば、上目使いで見上げた瞳が、顔を真っ赤にしたギルベルトを映す。

熱い喉には少し冷たい液体が、ドロリと体内へと流れていく。

ストローを口から離して、口内に残る違和感に、舌を出して眉を顰めた。



「マズ…あ、それっぽくニガイって言おう思っとったのに、あまりの不味さにマズイゆーてしもた」



濡れた口端を親指で拭いながら嫌な顔をする俺に、ギルベルトは顔を更に真っ赤にして。フランシスは顔を嬉しそうに輝かせて。



「な…おま…っ」

「え…ちょ…っ」



口をわなわなと震わせる2人に、「なん?」と首を傾げれば。



「お前、俺の、ジュース…っ!」

「えー!?何それ何それ!ズルいよお兄さんもそれやりたい!!」

「ギャー!?フランシス何してやがる!!」

「いいじゃないお兄さんにも吸わせなさいよ!」

「テメェはどこ吸おうとしてんだよ!!」

「やー。ギルちゃんよくこんなモン飲めるなぁ」



再び押し倒されそうになっているギルベルトと、やけに息が荒いフランシスを止めもせず、後味を消すために悠々とペットボトルの水を飲む。

サラリとした喉ごしは口直しには最適で。

それを一気に飲んで、ぷはっと一息入れてから。



「フラン。ギルちゃん。おおきに」



2人に向けて笑ったら。

最初の俺とフランシスの状態になっていた2人が顔を見合わせて、恥ずかしくなったのか、お互いに少し吹き出す。

おめでとうと、はにかんだように2人に言われて、それから今の状況がおかしくて。

また、3人で吹き出した。






†end

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