伝わらない。伝えられない
「──っフェリシアーノ!!」
「!?お二方ともよくご無事で‥!」
「お帰りアン。よく戻って来れたね」
「フランやん!なんや久し振りやなあ」
「急に魔方陣が現れてビックリしたんだぞ」
「あぁ。あっちで会ったアーサーが助けてくれたんよ」
──へえ。アーサーがかい?
そう言ったアルの表情は暗く。
周りの異変に気付くのに。それ程の時間は掛からなかった。
"イヴァンさんと耀さんがお戻りにならないんです"
眉間に不安の色を刻む菊に、ルートが皆を集めて指示を出す。
別館に向かったらしい2人を探しに。菊、ルート、ギルが。
出口を探しに。フラン、アル、マシューが。
それぞれ別れて部屋を出た後には。未だに目覚めないフェリシアーノと、側で眠るロヴィーノ。
そして俺と。先程からテーブルのイスに座ったまま、一言も喋らないアーサーが居た。
「お前だけ。何してん」
端に座る彼から、1つ空けたイスに座る。
言葉の裏にある皮肉に気付いたのか。1個隣の彼は、小さく舌打ちをした。
「何か用かよ」
「別に」
「ならどっか行け」
声は低く、刺さるような語尾。
明らかな苛立ち。
それなのに言い返す気になれないのは。
「お前、目。どこにやったん?」
彼の目が。
色を無くしているからだろう。
「意味分かんねぇこと、言ってんじゃねぇよ」
「意味分かんねぇのはそっちの方や」
「あァ?上等じゃねぇか。顔出せよ。殴ってやる」
「殴れるもんならやってみい。今すぐや」
睨むようにアーサーを見て。空いたイスに勢いよく手をついて顔を突き出す。
明らかな煽り。
殴るには絶好の機会だと言うのに。目の前の男はただ顔を歪めるだけだった。
「‥なんでなん‥‥?」
ついた手を、握り締める。
呟いた言葉は苦く。
お互いの表情を曇らせる。
「お前のことや。どうせ1人で格好付けて、無理したんやろ」
「魔力を使いすぎただけだ。直ぐに、治る」
「ウソや」
つん──と、鼻の奥が震える。
伏せた瞼を少しだけ上げて。苦しそうに丸まった背中に手を伸ばす。
このまま触れなければ。きっと彼は、一生気付かないのだろう。
自分が今どこに触れようとして。どんな顔をしているのかなんて。
「俺もロヴィも。過去のお前に助けられた」
「あぁ」
「自分かてボロボロやのに。未来に託すとか、格好付けて」
「‥‥あぁ」
「‥‥バカやろ」
バカや。大バカや。
2人揃って、何してんねん。
言いたい言葉は噛まれた唇に遮られ。空いたイスに視線が落ちる。
いつもの憎まれ口は。無い。
──バカやろう。
こんな奴に、あの時言えなかったお礼を言ったって。
何の意味も、無いじゃないか‥‥
どこにも触れなかった手の平が。
背中のように丸まった。
†end
国擬人化BL