他的感情論




何を言われてもいつもヘラヘラと笑っているアイツ。

"お前なんて嫌いだ"

そう言ったら、どんな顔で笑うのだろう。




「好きだよ、ヒヨ」

「五月蝿ぇ」



後ろからまとわりつく赤也をぞんざいに引き剥がしながら、読んでいた本に目を落とす。

ここは日吉の部屋で赤也は一応お客さんだが、そんな事は関係ない。

そもそも勝手に押し掛けて来たのだ。
思いやる必要なんて皆無だった。



「ひでぇ‥」

「嫌なら帰れ」



そもそも俺はコイツが嫌いだ。

ヒヨ、ヒヨ、と許してもないあだ名で呼んで、此方の事などお構い無しに勝手にまとわりついてくる。

どんなに迷惑そうな顔をしてもヘラヘラと笑い、それ自体を楽しんでいるかのようだった。




「ねぇ、ヒヨ」




少し甘い声を発したかと思えば。本を持つ腕を軽く掴まれ、目の前に身体を割り込ませてキスをしてくる。

抵抗はしない。

ただ唇に感じる柔らかさと、鼻孔を掠める赤也の匂いを受け入れる。




「…好き」




唇と唇の隙間から、そっと舌に乗せて呟く。

なんて苦い言葉だろう。

飲み込ませるように入ってきた舌を受け入れながら、吐き出すように吐息を吐いた。


──ひやり、

赤也の指が撫でるようにシャツを捲り上げ、腹部を外気に晒す。

肌寒さに肩を震わせれば、暖めるように手のひらが身体をなぞる。



「…っ、ふ」



舌先から零れた声に身を捩る。

絡め取りきれなかったどちらかの唾液が、透明な糸を引いて腹部へと落ちた。




「エロぃ‥」




重力で下に流れる唾液を眺めて呟いたかと思えば、それを己の舌で舐めとる。

舌の熱と熱い息が腹部を刺激し、その光景に短く息を吐いた。



──気持ち悪い。



日吉の性感帯を確実に刺激する舌先と指。

時々見上げる弧を描く瞳も、この時だけは心臓を跳ねさせる材料にしかならない。



──気に入らない。



心の中で毒づきながら、疼く身体を隠すように目を伏せる。




何を言われてもいつもヘラヘラと笑っているアイツ。

"お前なんて嫌いだ"

そう言ったら、きっと同じ顔で笑うのだろう。



†end

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