これで。みんな助かったんだ。

これで。もう悲しい思いをする必要はない。

これで。全部、終わり‥‥




「──だめ、だ‥‥」

「っ、ロヴィ!!」




誰かに引き戻されるように。巻き戻されるように。堕ちていた意識が目を覚ます。

よく見る天井と、覗き込んできたいつもの顔に。ここが倒れた後の続きなんだと直ぐに理解した。




「良かった、ほんまに良かった‥‥!」

「‥‥お前、何て顔してんだよ」

「何てって!ロヴィ、心臓止まりかけたねんで!?顔色も真っ青やったし。俺もうどないしようかと‥‥!」




涙と鼻水を盛大に流しながら。恐る恐る。けれどもしっかりと起き上がった俺の身体を抱き締める。

華奢な見た目とは裏腹な固い胸板に押し潰されて。苦しいと溢しながらもその暖かさに安堵した。




「どっこも痛いところはないか?苦しいとかは、大丈夫か?」

「あぁ。大丈夫だ‥‥」




言いながら。胸の辺りを握り締める。

痛くないのは確かなのに。この感覚は何だろう。

心音が早い。何かを無くしたような虚無感。少しの目眩。胸騒ぎ。




「‥‥俺、行かなきゃ」




制止する声を無視して立ち上がろうとすれば。まだ覚醒しきれていない足が身体を支えきれずに前方に揺れる。

倒れそうになった俺を抱き止めて。直も進もうとする身体を抑止する。




「ひょっとして、フェリちゃんに何かあったん?」

「──っ!」




不安を言葉にされて。息を飲む。

やっぱりという言葉は俺の表情から察したのか。けれども分かったからと言って、俺を止める理由にはならない。




「‥‥放せ」

「いやや」

「っは、放せよ!アイツが!アイツが泣いてるんだ!俺が行かねーとあのバカっ、何も‥‥!」

「そんなら俺も行く」

「──え?」




掴まれた腕に噛み付こうとした口が。何の変哲もない母音を発する。

若干裏返った声はニコニコと暢気に笑う顔に向けられ。不甲斐ない成りに足掻こうとした足も止まる。




「お前、それ。意味分かって言ってんのか?」

「もちろん分かってるで」

「や、だってどこに行くかも。理由だって知らないのに‥‥」

「俺はみんなの親分やさかい。理由なんて、それで十分やろ?」




得意気な笑顔を向けられて。正直、呆れる。

けれども大分落ち着いた感情に。俺も思わず笑みを溢した。




「一筋縄じゃ、いかねえかもしれねーぞ」

「そんなん慣れっこや。言っとくけどロヴィ。俺、お前より長生きやねんで」

「そうだったな」




自然に笑えた自分に安堵しながら。脳内に響く止まない泣き声にバカだと呟く。

怖がりで泣き虫で。どうしようもない位ヘタレなくせに。どこぞのヒーロー野郎みたいに格好付けやがって。

お前にそういうのは似合わない。お前はもっと、周りに甘える奴だろう?




「──行くぞ」




だから。俺が側に行ってやるから。

大丈夫だなんて。
泣きながら言うなよ。






†end

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