んだ迷路とキレイな涙




赤黒く滲んでしまった。

人も、街も、空も。
自分自信さえも。




「──っ、アントーニョ!!」




急に名前を呼ばれて
顔を上げれば。

ロヴィがもの凄い剣幕で
部屋に入ってきた。


それを何の気なしに
眺めていたら。

目の前で足を止めたと同時に
左手首を掴まれる。


一瞬目を丸くした俺に。

ロヴィは盛大に息を吸って、
それから盛大に声を吐き出した。




「バカかテメーは!?何やってやがる!」




強引に持ち上げられた
腕を見れば。

何故か手の甲から絵の具のような
真っ赤な色が溢れている。


何処かが痛いと思ったのは。

もしかしたら
此処だったのかもしれない。


泡のような感覚に。
ただ首を傾げる。




「深く刺しやがって…っ」




険しい顔で膝を付き。

持っていたタオルで
絵の具を拭う。


じわりじわりと
染み出てくる赤色は。

まるで何かの例えのようで。




「…この国のようやな」




いつの間にか右手に握っていた
ナイフに目を落とす。


銀色に光る刃先に赤い雫。


これは自分か。
それとも敵か。




「‥‥もういい…」




消え入りそうな声で。

ナイフを持つ手に
そっと触れる。


俯いた瞳からはキレイな涙。


まだあどけなさの残る
頬に伝って。

雨粒のように床に落ちた。




「もういいよ、アントーニョ…。俺ももう、大きくなった。だから、もういいよ」




震える指先は
あの頃のままで。

泣き虫なのも
あの頃のままで。


まだだ、と。

俺は首を横に振る。




「ッ俺、これ以上傷付くお前を見たくない!お前のそんな顔なんて、見たくない!だから…っ」

「──ロヴィ」




血に染まった左手で。

汚してしまわないように
抱き寄せる。


止めた息が愛おしい。
暖かい手は太陽のよう。




──もう、遅いんだ。




赤黒く滲んでしまった。

人も、街も、空も。
自分自信さえも。


戻り方を忘れてしまった。
止まり方も忘れてしまった。


ただ一つのものを
守るためだけに。

歪んだ迷路を彷徨い進む。




「‥‥堪忍な」




落ちた言葉は雫のようで。

彼がキレイならそれで良いと。
波打つ痛みに目を閉じた。





†end

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