暗黙の罰
"それ"に気付いたのは。
幾分か前の事だった。
「お主、目が視えておらんのじゃろう」
何気なく発した言葉は、いつものように唇を重ね、ベッドに押し倒した時の事だった。
その言葉を聞いて、次の行為に目を閉じていたブレイクが瞼を上げる。
優々と天井を眺めるような、色の見えない瞳をしていた。
「何を、言ってるんですカ」
馬鹿馬鹿しいとでもいうように吐き捨てて、瞬きを一つして横を向く。
綺麗な薄紫の瞳を髪が隠して、感情さえも隠してしまう。
「ならば、わしの目を見てみるがいい」
「貴方と見つめ合うとか胸糞ですヨ」
「いいから」
文句を垂れるブレイクの横髪を退けて、顔をこちらに向かせる。
視線を端にやって逃げていたブレイクだったが、無言でいると観念したのか。そろり、とバルマを見上げた。
──やはり、な…
聞くときに語尾を上げなかったのは、確信があったから。
見つめているのに、どこか遠くを視ている両の瞳。
微妙に合わない視線が、バルマの中に違和感を生む。
「いつからじゃ」
「‥‥前の一件から、目覚めた後‥」
ポツリ、と。視線を端にやる。
この男にしては珍しく、居心地の悪そうな表情を浮かべている。
性格からして隠したかった事なのは確かで、隠し通せるとも思っていたのだろう。
自分に対する見解の甘さに、バルマは惜し気もなく溜め息を吐いた。
「呆れました?」
「あぁ。わしに対するお主の信用の無さにな」
「バレない自信、あったんですけどネェ」
「それがまた癪に触るわ」
頬に触れて、首筋にキスを沿わす。
どんなに慈しみを籠めても、その行為すら視えないというのか。
「‥お主は馬鹿じゃの」
「‥‥知ってます」
身体に触れて、心に触れて。
それでも足りないと思ったのは、きっとその瞳に何も映らないせい。
──最初から気付いておったわ
そう言ったら。
また居心地の悪そうな顔をして、隠すようにキスをした。
†end
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