想安堵:番外




「また他国にちょっかいを出したのですか?」




世界各国から人が集まる大会議に参加した帰り。
廊下を歩いていると、徐に声をかけられる。

少し通り過ぎた声の発信源に振り返れば、そこには柱に背を預けて立つ菊が居た。




──いや、違うな。




名前を呼ぼうと口を開くが、相手の違和感に気付いてまた閉じる。


大日本帝国。

今の彼は黒い軍服を纏い、突き刺さるような鋭いオーラを放っていた。




「貴方の側に居た方は、新しく手に入れた方ですか?」

「‥だったら、どうするの?」

「いいえ。別に何も」




コツコツと靴底を響かせながら、こちらに近付いてくる彼は。僕とよく似た笑顔を浮かべていた。




「但し、」




白い手袋に包まれた人差し指で、僕の顎下に触れる。

見上げた顔は自信に満ち溢れ、寄せられた眉の下にある漆黒の瞳がとても魅力的だった。




「──但し、これ以上他国にちょっかいを出すのでしたら、私が黙ってはいませんよ?」




ぴんっ、と跳ねるように離された指を追えば。その瞳が弧を描いて笑う。

上げられた口角に嫉妬のような感情を抱いたのは気のせいか。
壊してやりたい衝動に、心臓がキリリと痛む。




──決めたよ。




僕が歩いて来た廊下を、靴の音を響かせながら去っていく彼を見ながら。心中でとぐろを巻くように唇を濡らす。



壊してあげよう。
漆黒の瞳を。

歪ませてあげよう。
綺麗な口元を。



次に手に入れるのは。

君だよ、菊。





†end

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