離感情




人を斬る姿が、とても美しいと云われた。




「Hola!」



棄てられた粗大塵のように足元に転がる敵の兵士を、感情のない瞳で見下ろしていると。後ろからやけに明るい声が聞こえてくる。

戦場という場にそぐわないその声に、少しだけ──いや、盛大に嫌な予感を感じて振り返れば。

そこには声以上に明るい顔をした青年が、此方に向かって手を振っていた。




「また貴方ですか‥」

「ん?なんや、今日はテンション低いんなぁ」




ニコニコと笑いながら近付いて来る彼の肩には、変わった形の斧が乗っかっていて。

その武器から間合いを取るように、私は一歩身体を下げる。




「相変わらず仰山殺りよるなぁ」

「仕事ですので」

「おわ、おもろない回答」




死んだ兵士の頭を爪先でつつきながら、喉を鳴らして笑う。

何がそんなに面白いのか。
私にはそれが理解出来なかった。




「──なぁ。人を斬るときって、どんな気分?」




しゃがんで切り口を見ていたと思ったら、その翡翠の瞳が弧を描いて私を見上げる。

純粋な気持ちの吐露。
皮肉めいた事を云ったというよりも、ただ興味本位で聞いたという方が近いだろう。

突拍子もない質問に、私は無表情でその瞳を見返した。




「私はただ、祖国の為に戦っているだけです」




抑揚のない言葉。
そこに感情を挟む余地はない。

人を殺すという行為をどう受け入れるか。それが出来なかった者が真っ先に死ぬのが戦場だった。




「…ふ、はははっ」




見上げたまま何度か瞬きをした後、急に彼が声を上げて笑い出す。

何がそんなに可笑しいのか。理解出来ずにそのまま彼を見ていたら、抱えていた腹を放して徐に立ち上がる。

日本人の平均身長よりも高い彼の背に、今度は私が見上げる番だった。




「俺、あんたのそういうトコが好き」




空いた右手が私の顔へと伸び、指先で顎を持ち上げられて上を向く。

抵抗はしない。

この茶番に付き合ってやる暇など皆無だとでも云うように、ただ彼の瞳を見据える。




「感情のない瞳。感情のない言葉。人を殺すことに何の抵抗もないくせに。あんた、斬る瞬間だけは、酷く愛おしそうな顔をするんやで?」




──知っとった?


突き刺さるような視線を受け止めながら、その瞳が細く弧を描く。

傾げられた表情が、酷く気を荒げさせた。




「…話は、それだけですか?」




それ以上口を開けばその右手を切り落とすと腹の中で嘯きながら、刀を掴んでいた右手に力を込める。

少し眉間に力を入れて彼を見れば。剣呑な雰囲気に気付いたのか、それ以上は何も云わず、あっさりと解放した。




「Hasta luego!」




悪びれもせず先程と同じように明るい笑顔を向けながら、担いだ斧をそのままに、飄々とした足取りで去っていく彼。

また会いに来るつもりか。

嫌な気分を取り払うように、刀身を振ってこびり付いた血を払い去る。




『──斬る瞬間だけは、酷く愛おしそうな顔をするんやで?』




飛んだ滴は真っ赤な水溜まりへと跳ねて。

作った波紋が、それを見ていた私を揺らした。





†end

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